ユリゼルの正体
深層のさらに奥へと進む二人の前に、不気味な魔法陣が現れた。周囲には魔力の波動が漂い、通常の魔物とは一線を画する圧迫感が空間を支配している。アレクは剣を構えながら、ユリゼルに声をかけた。
「これ、ただの罠ってわけじゃなさそうだな。」
「ええ。これは……封印の跡よ。」
「封印?」
ユリゼルの言葉に驚くアレク。彼女の目が真剣そのものであることに気づき、緊張が走る。
「この魔法陣は、何かを封じ込めていたもの。でも、見てわかるでしょう? 既に壊されているわ。」
「ってことは、中にいた何かが外に出たってことか?」
「その通りよ。そしてその“何か”が、この深層を異常に変えた原因でもあるの。」
ユリゼルは魔法陣を指差しながら、静かに説明を続けた。その姿はどこか慣れた様子で、まるでこの場所のことを以前から知っていたかのようだ。
「……お前、どうしてそんなに詳しいんだ?」
アレクが尋ねると、ユリゼルはしばらく口を閉ざし、何かを決意したように深く息をついた。
「私がここにいる理由を話すわ。」
突然の告白に、アレクは息をのむ。ユリゼルはいつもの軽い調子を捨て、真剣な顔つきで言葉を紡ぎ出した。
「私はね、この世界の調和を保つために存在している“精霊”よ。正確には、高位の精霊に属する存在。ユリゼルという名前も、私が自分で選んだもの。」
「精霊……?」
アレクは眉をひそめながら、彼女の話を理解しようとする。
「この深層には、かつて大きな戦いがあったの。その結果、危険な存在を封じ込めるためにこの魔法陣が作られた。私はその封印を監視するためにここに派遣されていたのよ。」
「じゃあ、その封印が壊されたってことは、お前の任務が失敗したってことか?」
ユリゼルは苦笑し、肩をすくめた。
「そう取られても仕方ないわね。でも、この封印を破ったのは私の力を超える何者かだった。その“何者か”が、このダンジョンに今もいる。」
「……つまり、そいつを倒さないとここから出られないってことか?」
「ええ。そして、それが今の私の使命でもあるわ。」
話している最中、魔法陣の奥から重低音の唸り声が響いた。空気が震え、巨大な影が二人に迫ってくる。
「来たわね……アレク、準備はいい?」
「もちろん。お前が精霊だろうとなんだろうと、俺のやることは変わらないさ。」
そう言いながら剣を構えるアレクに、ユリゼルは微笑みを浮かべた。そして彼女は魔力を集中させ、周囲に光の結界を展開する。
「なら、私の力も借りなさい。相棒。」
その言葉を合図に、二人は巨大な敵へと立ち向かった。これまでの戦闘と違い、ユリゼルはその本来の力を解放し、精霊としての高位魔術を存分に発揮する。その力は圧倒的で、アレクが呆れるほどだった。
「おいおい……お前、本気出したらこんなに強いのかよ。」
「ふふ、何を今さら。これでもまだ全力じゃないわよ。」
互いに軽口を叩きながら、次々と繰り出される魔物の猛攻を二人で凌ぎきる。その連携は、まるで長年の相棒のように自然なものだった。
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