休憩のひととき
深層での戦闘を終えたアレクとユリゼルは、崩れかけた壁際でひと休みしていた。ほんの少し開けた場所に転がる石に腰を下ろしながら、アレクは持っていた水筒を傾ける。
「やっぱり深層はしんどいな……。」
アレクは大きく息を吐き、汗を拭った。
「何を弱音吐いてるのよ。さっきの戦いでだいぶ慣れてきたでしょうに。」
ユリゼルは腕を組み、そっけなく返す。だが、その声色にはどこか柔らかさが含まれていた。
「まあ、確かに慣れたけどさ。それにしても、お前と連携してうまくいくとは思わなかったよ。正直、助かった。」
アレクがそう言うと、ユリゼルは少しだけ頬を染めたように見えた。
「ふん……それくらい当然よ。私の力を過小評価してたのが間違いだったわね。」
アレクは彼女の言葉に苦笑しながらも、その表情がいつもより穏やかなことに気づく。少し間をおいて、ユリゼルがふと口を開いた。
「……あなた、案外やるじゃない。」
「え?」
意外な褒め言葉に、アレクは一瞬きょとんとした。そんな彼を見て、ユリゼルは微かに笑みを浮かべる。
「私と出会えたことも、好都合だったかもしれないわね。」
ユリゼルの視線はどこか遠く、けれど暖かさを帯びている。その言葉を噛みしめるように、アレクは彼女を見つめた。
「おいおい、それってお前なりの褒め言葉か?」
「どう思うかは勝手よ。でも……。」
ユリゼルはわずかに目を伏せた後、言葉を続けた。
「さっきの戦い、あなたがいなかったら少しだけ面倒だったかもしれない。感謝してあげるわ。」
「感謝って……お前、本当に素直じゃないよな。」
アレクは笑いながら頭を掻くが、ユリゼルが普段の態度を崩してまで感謝を伝えるのは珍しいことだと気づく。そのことが妙に嬉しく、彼の心に小さな温かさをもたらした。
しばらくして、二人は立ち上がった。アレクは剣を軽く振りながら準備運動をし、ユリゼルは手に光を灯して周囲を照らしている。
「それにしても、次はどんな魔物が出るか、さっぱり予想がつかないな。」
「だから気を抜かないことね。何が出ても私がいるから安心しなさい。」
ユリゼルが自信たっぷりに言うと、アレクはわざとらしく目を細めた。
「それって、俺が頼りないってこと?」
「……半分くらいは。」
小さく微笑む彼女に、アレクはつい吹き出してしまった。その軽妙なやり取りが二人の緊張を和らげ、次の戦闘に向けた決意を固めさせた。
「よし、じゃあ次も頼むぞ、パートナー。」
「……ええ、任せて。」
そう言ったユリゼルの声には、先ほどよりも確かな信頼が感じられた。そして二人はまた、新たな挑戦へと一歩を踏み出した。
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