ユリゼルの試練②



スキル「好都合」が光を放つと、アレクの胸の内にかすかな暖かさが広がった。それはこれまで感じたことのない感覚だった――まるで、ただの便利な力だと思っていたスキルが、彼に何かを訴えかけているように思えた。


「……好都合、か。」


彼は自嘲気味に呟いた。これまでこのスキルに助けられてきたのは事実だ。しかし同時に、この力に甘んじて、自分自身と真剣に向き合うことを避けてきたのも事実だった。


「スキルが便利だからって、それに頼りきりじゃ駄目なんだよな。」


目の前に立つもう一人の自分――冷酷な笑みを浮かべるアレクは、腕を組んでじっと彼を見つめていた。


「お前がそう思うなら、見せてみろよ。本当にこの試練を越えられるだけの覚悟があるのか。」


その言葉が挑発であることは分かっていた。だが、それでもアレクの心は揺るがなかった。


「覚悟なら、ここにある。」


アレクはそう言いながら一歩前に出た。その足取りは、これまでの迷いや怯えを振り払うように力強かった。


「お前は俺だ。俺がこれまで逃げてきた弱さそのものだ。だけど――」


拳を握りしめ、アレクは目の前の自分に向かって突き出した。


「俺は、そんな俺を越えてみせる!」


その瞬間、スキル「好都合」の光がさらに強く輝き、周囲の空間を飲み込むように広がっていった。



光が収まると、アレクの手にはかすかな紋様が浮かび上がっていた。それはスキル「好都合」の象徴のようにも見える不思議な模様だった。


「……これは?」


目の前には、もう一人のアレクがいない。代わりに、彼の胸の奥に確かな決意と力が宿っている感覚があった。


「スキルが……応えてくれたのか?」


彼は拳を見つめながら呟いた。これまで単なる偶然や幸運を引き寄せる力だと思っていた「好都合」が、彼自身の意思と共鳴し、新たな可能性を示していることを感じたのだ。


そして、空間が再び揺らぎ始めた。


「まだ終わりじゃないのか……!」


その場に現れたのは、巨大な影だった。それは彼がこれまでに見たどのモンスターよりも恐ろしく、圧倒的な存在感を放っていた。



巨大な影を目の前にして、アレクは一瞬立ちすくんだ。これまで何度も恐怖を感じてきたが、今目の前に立つ存在はそれらすべてを凌駕するものだった。


「俺一人で、こんなのに勝てるのか……?」


心の奥底から湧き上がる不安。それでも、彼は震える拳を握りしめ、目の前の敵に立ち向かう決意を固めた。


「……俺はもう逃げない。自分自身も、この状況も、全部乗り越えてみせる!」


その言葉に応えるように、スキル「好都合」が再び輝きを放った。周囲の空気が変わり、彼の体が軽くなる感覚がした。それはまるで、スキルが彼を守り、導いてくれるかのようだった。


「やってやる……!」


アレクは敵に向かって駆け出した。新たに覚醒した力を武器に、彼の試練は次なる局面へと突入する――。

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