ダンジョン深部②
アレクは痛みを感じながらも、その場に立ち尽くしていた。疲れた体は震え、息が荒くなる。だが、目の前に広がるダンジョンの奥地は、彼に休息を許さなかった。暗闇の中に潜む無数の魔物の気配が、また一歩近づいている。
――まだ、終わりじゃない。
アレクは力なく呟き、ゆっくりと歩き出す。足取りは重く、全身がだるさに包まれている。それでも、止まってはいけないという本能が、彼を前へと進ませる。
「次は……どうする?」
一歩、また一歩と足を進める度に、彼の中で湧き上がる不安の声が大きくなっていく。この先に何が待っているのか、予想もつかない。スキル「好都合」で、あの魔物を倒したことは確かだが、それがすべての答えではないことを、アレクは感じていた。
その時、背後から一度きりの足音が響く。それは、確実に近づいてくる音。振り返ることなく、アレクは足を止めた。ひとつ、深呼吸をする。
――また来たのか。
次々に迫る魔物たちの気配は、容赦ない。だが、その中でもアレクは冷静に状況を見極めようとしていた。今はまだ、戦う時間ではない。スキル「好都合」にすがるのは最後の手段だ。
「どうすれば、もっと有利になる……?」
言葉は自然と漏れた。自分の弱さを痛感しているのだろうか、アレクの声はどこか虚ろに響いた。次の戦いに備えて、何か手を打たなければならない。だが、今はその方法すら思いつかない。
「逃げるか?」
そんな思考が頭をよぎったが、アレクは即座にそれを振り払った。逃げることができれば、どれほど楽だっただろう。だが、このダンジョンの奥深くに足を踏み入れてしまった今、戻ることはできない。
「生きろ……」
アレクは再び呟き、自分に言い聞かせるように歩き続けた。だが、その歩みの中で心が揺れるのを感じる。魔物に勝てたのは幸運だった。ただ「好都合」だけでは、到底乗り越えられない壁が次々と立ちはだかってくることを、アレクは確信していた。
その時、突然、目の前に何かが光った。それは、ほんの一瞬の閃光のようだったが、アレクの目はそれを捉えていた。
「……?」
その光が導く先に、一つの扉が現れる。扉は古びており、長い間閉じられていたようだが、どこか不自然に開かれている。その扉の先に、何かが待っている気配がした。
――これは「好都合」なのか、それとも罠か?
アレクは迷った。スキルが導いたのか、それともただの偶然か。どちらにしても、この先を進むべきか、戻るべきか。それとも、試練に挑み続けるべきか。
心の中で、葛藤が渦巻く。だが、彼はもう決断を下さねばならない時が来ていた。長く迷っている暇はない。
「行くしかない。」
そう呟くと、アレクは扉の前に立ち、ゆっくりとその扉を開けた。
扉の向こうには、まるで時間が止まったかのような静寂が広がっていた。中に入ると、壁には古代の文字が刻まれており、何かが彼を待っているかのような気配が感じられる。
「ここは……」
彼の声は、無駄に空間を満たすだけだった。扉が閉じる音もなく、その後ろに現れたのは、一人の人物だった。
その人物は、まるでアレクを待っていたかのように微笑んだ。
「……君が来るのを、ずっと待っていた。」
その人物の目が、アレクの心を見透かすようにじっと見つめていた。アレクは無意識に背筋を伸ばす。だが、この人物が何者なのか、まったく分からなかった。何か違和感を覚えると同時に、アレクは自分の心の奥底に恐怖が広がっていくのを感じた。
「君は……誰だ?」
アレクの問いかけに、その人物は静かに笑みを浮かべた。彼の答えは予想外だった。
「私は、君がここに来ることを選んだ者の一部だ。」
その言葉に、アレクは深い疑念を抱いた。だが、恐怖がその心を支配する前に、彼は決して諦めることなく、その人物の言葉を待つのだった。
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