ダンジョン深部①
アレクの目の前に現れた魔物は、巨大な爪を振り上げ、まるで地面を引き裂くかのような音を立ててアレクに迫る。圧倒的な速さと力で、全身が震える。しかし、彼はその瞬間を予見していたかのように、すぐに身をかわした。
「――くっ。」
息が詰まる。予想以上の迫力に、冷静を保つのは簡単ではなかった。自分が今、死にそうだという確信が脳裏に浮かぶ。それでも、足が動く。心が震えながらも、体は先に進んでいる。
――生きろ。どんな方法でも、生き延びろ。
アレクは強く息を吐き出し、足元にあった大きな岩を引き寄せた。今、彼の目に映るものすべてが「好都合」の材料に見えた。周囲の地形、魔物の動き、すべてを計算に入れて、その瞬間が訪れるのを待つ。
「――来い。」
魔物がさらに距離を詰め、アレクの眼前に大きな爪を振り下ろす。その瞬間、アレクは素早く体を横に移動させ、後ろに転がりながら手元にあった岩を投げる。その岩は空中で一瞬、無音で静止した後、魔物の顔面に衝突し、大きな爆発を引き起こした。
その爆発に魔物はひるみ、わずかな隙間が生まれた。その隙を逃さず、アレクは前に出た。体力が限界を迎えているのが分かる。胸が重く、息が切れ、視界がぼやけ始めていた。
――あとどれくらいだろう。
アレクはその疑問を心に抱きながら、再度岩をつかんだ。今度は、これで終わらせる。もはや考える暇もない。死ぬか、勝つか。それだけだった。
「お願いだ…もう少しだけ、力を…!」
心の中でひたすら祈るように呟きながら、アレクは全力で岩を投げた。その一瞬、彼の心は無言で静まり返り、まるで周囲の音がすべて消え去ったかのように感じられる。
岩は魔物の胸に直撃し、見事に命中。爆風と共に、魔物は崩れ落ち、ようやくその姿が見えなくなった。
アレクはその場に膝をついた。深く息を吐き、全身の力を抜く。勝った、という実感が湧く前に、強烈な疲労感が襲ってきた。だが、彼はそのまま地面に顔を伏せるわけにはいかなかった。まだ、次が来る。もっと強力な敵が、そして試練が待ち構えていることは明白だった。
「生き延びなきゃ――。」
アレクはそれだけを呟きながら、再び立ち上がる。身体が痛い、頭が重い。それでも、彼の目はまだ死を恐れていなかった。生きるために、ただ戦い続けるだけだった。
だが、心の中で一つの疑問が湧き上がる。スキル「好都合」があれば、確かに命はつなげるだろう。しかし、果たしてそれだけで乗り越えられるのだろうか?
――この先、何が待っている?
アレクはその不安を胸に抱えながらも、足を踏み出す。彼がまだ答えを見つけることができないその問いが、どこまでも彼を追い続けるだろうことを、アレクは知らなかった。
しかし、彼が進む先に何が待っているのか――その答えは、これからの戦いの中で見つけ出すしかないのだ。
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