スキル「好都合」だけで難易度SSランクの世界を生き延びることは可能なのか─?
@ikkyu33
いきなりダンジョン奥地に、記憶を消されて飛ばされました
「好都合」と書かれた文字が、アレクの目の前で煌めいた。瞬間的に、彼は深い闇に包まれた。どこか見覚えのある感覚、だが、ここがどこなのかは全く分からない。
ダンジョンの奥地、かつて伝説として語られた場所。アレクは自分がどうしてここに来たのか、その経緯すら覚えていなかった。気づけば、周囲には無数の魔物の気配が漂い、空気が張り詰めているのを感じた。まるで、その息が時折背中に触れているような錯覚すら覚える。
――この世界で生き延びるのに、スキル「好都合」だけで足りるのか?
アレクの心は不安に揺れていた。自分が持っているのは、最も都合の良い状況を引き寄せるスキル。だが、いくら「好都合」を手に入れても、この世界がどれほど厳しいか、あまりにも不確かすぎる。その疑念が胸を締めつけ、無意識のうちに彼は深呼吸をした。
「深呼吸、だ。」
自分に言い聞かせるように、アレクは唇をかみ締めた。焦りは禁物だ。冷静にならなければ。魔物たちの迫る気配を感じながらも、彼は立ち止まらない。もし今、ここで足を止めたら、きっと何もかもが崩れ去ってしまう。
目の前に現れたのは、巨大な魔物だった。鋭い爪を持ち、赤く光る目がアレクを捉えている。その姿は、どこか恐ろしさと威圧感を感じさせるが、それだけではなかった。
――倒さなければ、ただでさえ厳しい状況が、さらに悪化してしまう。
アレクは目を閉じ、頭の中で思考を巡らせる。どうすれば最も有利な状況を作り出せるのか。少しでも「好都合」が働く瞬間を引き寄せるためには、冷静な判断と瞬時の決断が必要だ。
「――この岩だ。」
周囲の岩を見渡すと、近くに大きな岩が転がっているのが見えた。ひとつ、深呼吸をして、体を低く構え、力を込めてその岩を掴む。その瞬間、まるで時間が止まったかのように、周囲の動きがスローモーションのように感じられる。
アレクは無意識に自分に言い聞かせる。
――これが「好都合」だ。状況が、自分に味方してくれる。
そして、岩を一気に投げた。空中でその岩は魔物に直撃し、予想外の爆発音とともに爆風が広がった。魔物が目の前でひるむ。その隙に、アレクは一歩後退し、また次の瞬間に備える。
しかし、心の中で、アレクは確信を持てなかった。
――本当にこれでいいのだろうか?
「好都合」が働いた、確かに。だが、これが永遠に続くのだろうか? 今、この瞬間を乗り越えたとしても、次に待ち受けるものは、もっと恐ろしいものかもしれない。魔物の群れがさらに押し寄せるのは時間の問題だろう。
それでも、彼は動き続けなければならない。ここで立ち止まれば、全てが終わる。それだけは分かっていた。最も「都合がいい」瞬間を求めて、アレクは動き出す。
――いや、考えている暇はない。
目の前に現れた別の魔物が、今まさに牙を剥いてアレクに飛びかかろうとする。その一歩手前で、彼は再び冷静になり、足を踏み出す。全身を鋭く集中させ、次の瞬間に最も有利な状況を作り出す。
「――これが、俺の『好都合』だ。」
無意識に、彼は呟いた。アレクにとって、今はそれが唯一の支えだった。スキル「好都合」が彼に与えるもの、それは勝利のための力ではなく、生き抜くための手段。だからこそ、彼は決して諦めなかった。
ダンジョンの奥地に広がるのは、見えざる試練の数々だった。
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