第39話 アルフレッドVSリートス

「アルフレッド様……?」


「スカーレット……」


 レッティは自分の状況を確認する。

 ――ひと気の無い書架の間で、リートスが後ろからレッティに覆い被さる様な体制を取っている。


「ち……違います!」


 リートスも同時に同じ考えに至ったのか、そっとレッティの側を離れた。


「ぬゎーにが違うって言うのよ!浮気よ!!フシダラだわ!!ね、アルフレッド様ぁ!!?」


 図書館の中でもお構いなしにアナスタシアは大騒ぎする。

 ミラが本を抱えて様子を見に来て、アルフレッドとアナスタシアがいるのを見て目を丸くしている。

 司書も騒ぎに駆けつけて来た。


「図書館で何を騒いでいるんです!外に出てからになさい!」


 司書に追い立てられる様に図書館から外に出る。

 外はもう暗くなりかけていた。

 意外と長く図書館にいた様だ。


 アナスタシアはレッティ達三人と出会った時に、やけにあっさりと居なくなった……様に見せかけて、アルフレッドを探していたのだ。

 そして、ミラが近くにいない二人っきりで距離が近い、誤解を生む様な非常に不味いシーンをアルフレッドに見られてしまったと言う訳だ。


「……スカーレット、そちらのご友人を紹介して貰えるか?」


 アルフレッドの声が少しいつもより低い気がして、レッティは焦る。


「えっと……その、こちらは同級生で、リートスです」


「……リートス・グリムアだ。アンタの名前は知っているから言う必要はない」


 リートスはいつも通りに素っ気く無愛想で不遜だ。


「私の婚約者と随分と仲が良いようだな?」


 アルフレッドのリーマスを見る目は冷たく、声は低く威圧的だ。

 しかし、リートスはどこ吹く風だ。


「アンタが婚約者をほったらかしてるからな。そういうことにもなるんじゃないか?

 ……彼女とはチーム戦で一緒に戦う仲間だ。優勝を狙っている。自分はアンタには負けない」


 何それ!?なんか思いっきり喧嘩売ってない!?

 何でそんな事するの!?

 レッティはアワアワとアルフレッドとリートスを見比べる。


「へぇ……?」


 流石に驚いたのか引き攣った笑みを浮かべた。

 コメカミがピクピクしている。相当なお怒りだ。

 下級生が真正面から喧嘩を打ってくるとは予測出来なかったのだろう。


「アルフレッド様ァ……あんな女やめときましょ?

 私ならアルフレッド様を心配させたりしませんわ。私、一途な女ですのよ?」


 アナスタシアが上目遣いでアルフレッドを見つめ、パチパチと目を瞬かせるが、あれは何のアピールなのか。

 金色の長いカールした睫毛と高速瞬きはバサバサと音を立てる幻聴をもたらした。

 残念ながアルフレッドは視界にも入れなかったが……。


「リーマトス・グリムア……覚えておこう。お前がチーム戦でどんな吠え面をかくか楽しみにしているぞ」


 アルフレッドが踵を返して去って行った。


「アルフレッド様ァ!お待ちになってェ!!」


 アナスタシアもドスドス足音を立てつつ居なくなった。


「リートス様!やるじゃない!」


「別に様を付けなくていい。ロイドも」


「えっと……じゃあリーマス、なんでアルフレッド様に喧嘩売るような事言ったの?」


 お陰でレッティは寿命が縮むかと思った。


「別に……ただ何となく気に食わなくて。

 それより、ほら、探していた花を保存する方法について書かれている本だ」


 リートスがいつの間にか目当ての本を持って来ていてくれたらしい。

 騒動のせいで忘れていた。


「ありがとう!」


 早速パラパラ捲ると、この本に書かれた魔法薬を使えば、花を瑞々しい姿そのままに保存し、アクセサリーにする事も出来るみたいだ。

 しかも、手持ちの材料でどうにかなりそう!授業の為に買わされた薬草や触媒が余ってて良かった!


 喜んだ次の瞬間には、しかし、その花を受け取ったのはアルフレッドの婚約者スカーレットではなく、冒険者ミスティカだと思い出す。

 ……いやいや、どちらも私だから良いんだ。うん。

 取り急ぎ自分を納得させる。


「……花が好きなのか?」


「え?うん。コレでお花のアクセサリー作れそう。

 リートス、ありがとう」


「スカーレットはどんな色の花が好きなんだ?」


「えっと……白っぽい色かな?」


 アルフレッドに貰った花を思い出しながら答えた。


「そうか……じゃあな。今日はもう帰る」

 


 そう言うと、リートスはレッティの返答も待たずに立ち去った。

 ミラがニヤニヤと欲しいオモチャを手に入れた小さい子供の様な嬉しそうな顔で、その立ち去る背中を眺めていた。


「ふーん……スカーレット、ねぇ…………レッティどうするの?リートスの事はどうなの?」


 ミラが楽しげに肘で突いてくる。


「どうって何が?」


「もー!鈍感なんだから!このこの〜」


 更に肘で突いてくるのをレッティは避けて回った。


「何なのよ!私はそれどころじゃ無いのよ。

 ……アルフレッド様に誤解されちゃったかしら」


 はぁ……とレッティはため息を吐いた。

 そんなレッティの背中を親友は笑いながらバシバシ叩く。

 

「もう!大丈夫よ!辛気臭い顔しないで!

 偶には冷たい婚約者さんにお灸据えてやった方がいいの!」


「だって……」


 ただでさえ呪いのせいでアルフレッドは結婚しないなんて言っている状況だ。

 仲良くなりつつも、呪いを何とかしないと。


「ほら、本も読まなくちゃいけないし、チーム戦の事もそろそろ考えなくちゃいけないんだから、意地悪な婚約者さんの事なんて考えてる暇は無いわよ!」


 ミラの叱咤激励にレッティも頷く。


「そうね。アルフレッド様との仲は、まあ追々考えてく事にする」


「その調子!面倒な事は全部後回しにしましょう!」


 前向きな友人の言葉に少しだけ気分が上がって来た。


「ここに持って来てない本もあるものね、どんどん読んでちょうだい!

 いくらでも禁書貸し出してあげるから。親友特権ね」


 頼り甲斐のある親友がいて良かった。


「ミラ大好き!」


 レッティはミラに抱きついた。


「あらら、男性陣に嫉妬されちゃいそう」


 ミラもそう言いつつもしっかり抱きしめ返してくれた。



 

 

 

 

 

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