第36話 相談
「呪いかぁ…………」
呪い……魔王だかが生きていた頃はもっと沢山の知能の高い魔族がいて、よく人間を呪っていたらしい。
呪いを掛けられたらソイツを倒さないと大変!みたいなお話だった……気がする。
勇者イーロスが二百年前に魔王を倒してからは、強力な呪いを掛けてくるモノはいなくなり、学園の授業でもサラッと歴史書の数行で触れる程度の扱いになっている。
机に頬杖をついて悩むレッティに、ミラがひょっこり後ろから顔を覗き込んできた。
「恋のお悩み?」
「違うって!あと、髪の毛ふわふわでくすぐったい!」
「ふふ、ごめん」
ミラのふわふわのブロンドは頬に当たるとくすぐったい。
「そうね……うーん。呪いについて考えてたの」
ミラはキョトンとした顔をした後に、ニヤッと笑った。
「何々?誰を呪うの?…………イザベラ?協力するわよ。それとも婚約者さんに粉かけてるドスコイ?みたいな人?」
ミラが小声で冗談めかして楽しそうに聞いてくる。
「違うから!……悩んでる人がいてね。何とか力になりたいの」
ミラは口が硬いし、突っ込んで聞いてこない。
好奇心で人を傷付けないので少しだけ情報を開示する。
「ふーん……呪いのお悩みね。気のせいじゃないの?
「ううん……本当の本当みたいだから困ってるのよ」
レッティが本気なのを見てとって、ミラも本気で考え始めてくれたようだ。
腕を組み、眉根を寄せて唇を尖らせる様子が可愛い。
「それなら頭良い……周りに言いふらす事が無さそうな人に頼ってみるのはどう?」
「と、言いますと?」
ミラはニヤッとまた笑う。
「我らがチームリーダーのリートス様がいらっしゃられるじゃない!
私達もリートス様のお手伝いをお願いされてするんだから、リートス様だってレッティの手伝いくらいしても良いんじゃなくって?」
そう言いながら、ミラがリートスの方を見るので、レッティも釣られてそちらを見た。
二人の女子の視線を感じたのか、リートスが分厚い魔導書から顔を上げた。
濃い紫の前髪の間から覗いた赤い瞳が訝しげに細められる。
確かに、人付き合いが希薄なのでリートスは周囲に言いふらす心配は無さそうだ。
「おお!我らが天才リートス様!その絶大なる頭脳を凡庸な我らのために使って下さいまし!」
ミラが剽軽に声を掛けつつリートスに近付く。
リートスはミラの言い方が癇に障ったのか、眉根の皺を更に深くした。
自分の案件で喧嘩になっても嫌なので、レッティは気持ち足早にリートスの方に向かった。
「ご機嫌よう、リートス様。
実は相談したい事があるの……ダメかしら?」
レッティが小首を傾げると、リートスの眉間の皺が和らいだ。
「なんだ……ワイズじゃなく、ロイドの方の要件か。
なら良いだろう。人に聞かれたくない内容なら場所を変えるか?」
「あーら?私じゃダメでレッティなら良いの?天才様は随分と紳士的でいらっしゃる事!」
ミラが当てこする。
リートスはそれを無視してズンズン歩いていくので、ミラと顔を見合わせた後に、レッティは大人しく後ろに着いて行った。
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