第29話 二つの騎士団

 第十三騎師団は第八騎士団と共にアイアンアントの調査と討伐に来ていた。

 


 冒険者ギルドにも調査依頼が掛けられている大規模討伐だ。

 今回の討伐対象は蟻に似た姿をしたモンスターの群で、甲殻が非常に硬く、魔力を乗せた剣でないとダメージが碌に入らないのが特徴だ。

 

 魔法だけでも一応攻撃は通るらしいが、それが出来る程の魔力を持つ魔法使いは残念ながら、そうは居ない。

 それぞれの魔力を乗せやすい様に調整された剣や槍を使った方が魔力を一点に集中させ易いので、防御の硬い今回の様な魔物には剣と魔法両方に長けた騎士が当たるのが適切だ。


「被害は?」


 第八騎士団長ケレス・マクロイが被害を受けて逃げ延びた住民に聞き取りをしていた部下の報告を聞く。


「約半数の住人は残念ながら……生き延びた者達の中にも危険な状態の者も多数。血を吸われています」


「そうか」


 ケレスは眉一つ動かさずに、淡々と乾いた声で答えた。

 アルフレッドは手当を受けている若い男の痛々しい怪我を眉を顰めて眺める。

 酷い怪我だ。強力な顎で噛みつかれた上で血を吸われている。

 手当を受けても助からないかも知れない。

 自分があの子供に出来ることは何も無い。せめてこれ以上の被害を食い止める為に戦うだけだ。


「アルフレッド、行くぞ」


 イゴール団長に声を掛けられる。他の第十三騎士団の仲間達は既に準備が出来ている。


「はい」


「冒険者ギルドの連中はアレっぽっちでもうお終いかねぇ?

 それなりにお給金は出してもビビりばっかりか」


 ハロルド副団長が、冒険者の人数の少なさを揶揄する。

 集まったのはパーティ二つで十人にも満たない。


「足手纏いが少なくて良いだろう」


 話が聞こえていたらしいケレス団長が素っ気なく言った。

 イゴール団長も口数が少ないが、ケレスは何処か冷徹な印象を受けるので、アルフレッドは少し苦手だ。


 馬に乗って二つの騎士団は出発した。



 ♢♢♢♢♢



「酷いね」


 レッティは惨状に思わず呟いた。

 血の匂いが鼻に付く。変身後のレッティは他の人間よりもずっと匂いに敏感なのだ。


「でもレッティなら治せるよね?」


 白髪の美少年は楽しげに目を細めてレッティを見やる。


「もちろん」


 レッティは早速得意な治癒魔法を駆使して治療に当たる。


 ニクスは他の人に見つからない位置で人間になって貰った。

 冒険者としては軽装な装備で、線が細いのであまり強そうには見えない。

 輝く金色の瞳を興味深げにあちこち彷徨わせているせいかどうにも子供っぽい。

 しかし、レッティがマジカルクローゼットに一緒にしまってあげていた大剣を軽々と振り回す姿を見たならば、その評価は一変するだろう。

 ……それはきっとレッティの評価も同じだ。人外の力を振るう少女に人々は何を思うだろうか。


「アンタは……冒険者なのか?」


 膝から血を流す老人が不思議そうに聞いてくる。兜や鎧を身につけ、顔が隠れていても、まだ十代も前半の幼さは隠し切れない。


「そうよ。私強いんだから」


 レッティは跪いて、治癒魔法を掛けつつ笑顔で答えた。


「キリがないわね」


 ニクスにポツリと言う。

 怪我の程度が酷い人を優先したので、残りの人は放っておいても死にはしないだろうが、大勢の患者一人一人を手当していては、討伐に加わる事が出来ない。

 アルフレッドが負けるとは思っていないが、それで心配が一切なくなる訳では無い。

 新たな怪我人を増やさない為にも早く戦線に駆け付けたかった。


「それなら精霊の力を借りれば?」


 ニクスの提案にレッティは小首を傾げた。


「精霊の?」


 レッティの言葉に反応した様に、黄緑色の光がすぐ側で瞬いた。


「力を貸してくれるの?どうすれば良い?」


 精霊の光がチョンとレッティの額に触れた。

 すると、不思議な事にどうすれば良いのか理解できた。


「癒しの風よ――」


 レッティは精霊の力を借りて治癒魔法の力と範囲を増幅させた。


「この光は……?」

「何と神々しい…………」


 その場にいる怪我人や兵士達がレッティを中心に溢れ出し、優しく降り注ぐ光に目を見張る。


「痛くない!」「傷が癒えていくぞ……!」「この光は一体……暖かい」


「レッティ凄いね!」


 ニクスが無邪気にレッティを讃えた。

 

「ほとんど精霊の力だけどね。

 さあ、アルフレッド様達を追わないと」

 

 まだまだ仕事はいくらでもある。


 

 

 

 


 

 


 

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