第28話 精霊
『えー?何それ楽しそう!僕も混ぜて欲しいー!』
ニクスが駄々を捏ねる。
「ダメ!学園の大会に部外者が出れるわけないでしょ!」
レッティがニクスに、チーム対抗戦に出る事を言ったらこれだ。
ニクスはまだまだお子様なんだから……。
冒険者ギルドでも一緒にいると何故かニクスがレッティの保護者扱いされているが、大変心外である。
『ソイツ強いの?僕より?』
「リートス君よりはニクスの方が強いんじゃないかな?でも魔法しか使っちゃダメなの。
魔法限定ならニクスとも良い戦いしたりして?
私も何か治癒以外も使えれば良かったんだけど……」
肉弾戦ありなら剣を持ち出して……いや、清楚な子が好きだというアルフレッドに、赤毛の時に剣を振るってるところを見せられない。
何にせよ、大会では剣は使用禁止だ。
魔法の応用力を競うのが目的のトーナメントなんだし。
レッティが、大会でどうすれば役立てるかウンウン唸りながら考えていると、ニクスがキョトンと首を傾げた。
『え?魔法なら使えるのあるでしょ?』
「あるけど……攻撃には使えないから」
魔力自体は相当に多いらしい。学園の測定用の魔道具では測定不可能とか言われちゃって、先生も驚いていた。
リートスも同じらしく、後日測りに行ったらしいけど、レッティはまだ正確なのは測ってない。
とにかくトップクラスの魔力量らしい。えっへん。
しかし、不得意な属性では、その潤沢な魔力が活かしきれない。
四元素の魔法はかなり頑張ってもあまり素質が無いので、攻撃にはとても使えない。
一応基礎的なのは一通り使えるし、授業で求められる水準はクリアしているが、戦闘に使えるかと言うと……無理だろう。
少し喉を潤したり手を洗う程度の水を出したり、枯れ草に火を点けたりする程度の威力だ。
レッティが戦闘で使えそうな特技と言うと、膨大な魔力をそのままの形で発して、相手の魔法を打ち消すくらいか……消極的!
神聖魔法の中でも、レッティが使えるのは限られていて身体を清めるものと、ダメージの回復だ。
でも、特に使える人が希少な治癒魔法はかなり得意中の得意だから自信を持っている。
『精霊魔法は?』
「ん?使えないけど?」
精霊魔法は、精霊を使役して僅かな魔力の代わりに強力な魔法を代わりに使ってもらう、というもので使える人は限られている。
精霊に好かれている間だけ使えるので、強い精霊が味方してくれるからと調子に乗っていたところ、傲慢な態度で精霊に嫌われてしまう……という教訓めいた御伽話もあったっけ。
『でも、レッティ精霊見えてるでしょ?』
「……ん?どう言う事?見えてる?見えない人とかいるの?」
確かに、偶に精霊の光が見えることがある。
アルフレッドを探す為に、フェンリーが呼び出した精霊に手伝って貰った時もバッチリ見えていたし。
『人間なら見えないのが普通だよ……もしかしたらレッティの体内のお父さんのコアのお陰かもしれないけど。
でも、元から今みたいにオオカミの状態の僕らとも会話できるんだもん。
多分精霊の仲介があったんだと思う。
……攻撃に使えるかは分からないけど』
レッティ以外の人はオオカミ状態のニクス達の言葉が分からないのも納得した。
「精霊魔法か……どうやって使うのかしら?」
『仲の良い精霊とかいないの?』
「よく分からない。でも、私とニクス達の会話を助ける精霊さんはきっと仲良くしてくれるよね?」
レッティがそう言った途端に、目の前でチカチカ淡い黄緑の光が瞬いた。
『姿を隠してたんだね』
ニクスが嬉しそうに黄緑の光を目で追う。
「私の事助けてくれる?」
光が明滅しながらクルクル回った。どうやら仲良くしてくれるらしい。
「あなたは何ができるの?」
――ビュオォ
レッティの質問に答える様に、強い風が一陣吹いた。
「なるほどね……頼りにするね」
精霊はレッティの頬に一瞬触れてスッと姿を消した。
「あれ?行っちゃった」
『見て欲しい時だけ見える人に見えるようにしてるんだよ』
話に飽きて来たのか、くぁぁ……とニクスは欠伸をした。
「……?そうなのね」
正直何言ってるか分かるようで分からなかったが、一先ず相槌を打っといた。
『で、この後の僕らの予定は?』
「アルフレッド様と銀髪の状態でまた会いたいなって思う。
今、何処にいるかは知ってるし。
ハロルド様は多分私の事秘密にしててくれるから何とかなるでしょ」
『んふふ……助太刀するの?戦いに行くのなら僕も連れて行ってくれるんでしょ』
ニクスが、のそりと立ち上がる。後ろ足で顔を掻いている。
「もちろん。冒険者ギルドの方にも傭兵の応募が来ていたから、ニクスの分も申し込んでおいたよ。行こう」
レッティは素早く変身しながら、魔道具のクローゼットを使って鎧を身に纏った。
体が成長してもピタリと合う特別な鎧……神獣をそれと知りながら狩ろうとしたかも知れない不届者の遺品だが、素晴らしい品だ。
「さて、アルフレッド様と上手い事お話しする機会があれば良いな」
レッティはニクスの背に乗った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます