第27話 魔法の天才リートス・グリムア
「凄いわね。また一位?」
ミラがレッティを手をパチパチと叩いて讃えてくれる。
「ええ、勉強頑張った甲斐があるわ」
レッティは眼鏡をクイっと中指で押して、余裕ぶった笑みを浮かべる。
しかし、夜遅くまでテスト期間は勉強漬けで本当は余裕なんて無い。
視力を犠牲にした努力が身を結んで、レッティは学年一位をキープする事ができた。
麗しの婚約者様はと言うと、普段の授業は受けていないのに、学年一位だったらしい。
しかも、全教科首位という文句無しの成績というから恐ろしい。
更に、そのとんでもない成績は、アルフレッドにとっては別に珍しくも無い事の様だからもうと驚くと言うか、呆れると言うか……同じ学年じゃなくて良かったと、レッティは胸を撫で下ろす。
「魔法学は二位か……」
「私からすれば十分凄いけど?」
ミラは本気で褒めてくれているが、レッティとしてはやはり悔しい思いがある。
この教科だけは一位になった事が無い。
チラッと魔法学単独首位、魔法の天才と入学前から名高かったライバルを盗み見る。
あの天才君は四大元素の風火土水の魔法全てを使えるらしい。他にも実は使えるものがあるけど隠しているという噂もある。
……治癒系の聖属性魔法は使えないでいて欲しい。
男性で使える人は歴史上もほぼ居なかったらしいが……ゼロでは無いので警戒してしまう。
珍しい治癒系を使えるのは、レッティのアイデンティティなのだ。
「何で同じ学年なんだろ……」
小さくグチグチ文句が口から出て来てしまう。
あの魔法使いさんが居なければ、全教科一位も何とかなりそうなのに。
レッティが恨みがましく、ジトッとした目でその後ろ姿を見つめている……
と、振り向いた。
「――!?」
視線に気が付かれた!?馬鹿な……魔法の天才なだけではなく武人でもあったりするの!?
レッティは思わず身構えそうになった体を、人目を気にしてモゾモゾと少し動かしただけで抑え込んだ。
近づいてくる少年を、お澄まし顔で迎える。
「あら、私に何か用かしら?リートス・グリムア君」
リートスは魔眼では無いかと噂される赤い瞳を細めた。
濃い紫の長めの前髪から覗く瞳はルビーの様に美しいが、噂を信じて怖がり目を逸らす人もいる。
レッティは意地で視線を外さない。
「ロイド、また君だろう?学年首位は」
リートスの薄い唇が起伏の少ない淡々とした声を発した。
授業中に指されて発言する時以外で、リートスの声を聞くのは初めてかも知れない。
「そうよ。そして魔法学の首位は貴方よね。おめでとう」
レッティも負けじと、何とも思って無いですよ〜二位で悔しく無いです〜全教科ならこっちが上です〜という余裕をたっぷり乗せた態度をとった。
「来月……全学年でのチーム対抗戦があるのを知っているだろう?
自分と組んで出場して欲しい。ダメか?」
リートスは真っ直ぐにレッティを見つめてくる。
レッティは固まる。
「ちょっと……レッティどうするの?」
ミラが肘でチョンチョンと突いてくる。
「え?でも私婚約者がいるから………それに、私の魔法は戦闘に使えるかどうか…………」
流石に他の男性と二人でチームを組んだら噂になるだろう。
ただでさえ、最近地味眼鏡でアルフレッドと話をしている姿の目撃例が少ないレッティは、不仲説を流されているのだ……主にイザベラやアナスタシアによって。
「二人っきりは確かに問題よね。なら私も入るのってどう?」
ミラがニコリと笑って提案した。
「なるほど……ワイズも大体学年五位程度には常に入っていたな」
「今回は四位よ!」
ミラが胸を逸らして得意げに微笑む。
「それなら協力して貰えるとありがたい。戦闘については魔力が高いのなら何とでもなる。
いざとなれば道具を使えば良いしな。剣術も出来るって聞いてるぞ」
リートスはそう言うが、剣術はあんまり婚約者が見てそうな所では使いたくない。
剣筋からミスティカと同一人物とバレる可能性がある。
「ね?レッティ、面白そうじゃない?」
ミラがキラキラの目でお願いポーズで見つめてくる。
「はぁ……仕方ないなぁ、ミラは。そうね、参加するわ。期待はしないでよ」
「ん……感謝する」
リートスは頷くと自分の机に戻って行った。また分厚い魔導書を読み始めている。
あの天才は暇さえあれば読んでいる。
くぅ……レッティが魔法学で一位を取る日はまだまだ遠い様だ。
「来月かぁ……」
冒険者ギルドの依頼も日程調整しないと……ニクスがまた拗ねるかな。
脳内で巨大なモフモフのオオカミが不貞寝をする姿を思い浮かべた。
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