第26話 ハロルドとレッティ
「な……にを言って」
「オレ、女の子の顔覚えるの得意なんだよね」
ハロルドがパチリとウインクをして来た。
「それにその綺麗な空色の瞳も特徴的だけど、眼鏡で隠すの勿体無いね。
アルフレッドには秘密なんだ?あの巨大な白狼は神獣?」
「はい……」
隠し立てできる気がしないし、こうして話している間にもアルフレッドが帰って来てしまうかも知れない。
「秘密にしておいて貰えますか?」
「アルフレッドに?良いけど事情を聞かせてくれる?」
レッティはアルフレッドの姿が見えないかキョロキョロ窺いつつ、手短に説明した。
「ふーん……神獣のコアね。
もしかすると、そのスコル?って奴は魔獣と間違われたんじゃなく、コアを狙われたのかもしんねーなぁ」
「……え?」
ハロルドの思い掛けない言葉に聞き返した。
しかし、
「お、アルが戻って来たぞ」
婚約者の姿が見えたので、レッティは口を噤む。
「じゃあさお嬢さん、今度また話そうよ。
……アルがピンチになったらまた助けに来てくれるんだろ」
レッティはコクリと頷いた。
ハロルドは満足そうにそれを見た。
「面倒だからミルクも無しですよ。良いですよね」
アルフレッドはつっけんどんに上司にカップを渡した。
「えー……?サービス悪いね」
「スカーレット、ストリートティーでいいか?」
「あ、はい」
自分の分も持って来てもらえると思っていなかったので慌てる。
受け取る時に指が触れてドキリと心臓が一瞬大きく鼓動を立てたが、お澄まし顔で感謝して、直ぐに一口啜った。
「ありがとうございます」
あちちっ!
舌を少し火傷したかも知れない。アルフレッドは意外と近くでお茶を淹れたのか、持ってくる際にあまり冷えてない。
ハロルドはフーフー息を吹きかけて、お茶を少しずつ啜っている。
「お前……魔法使って保温したのか?
俺、猫舌だから寧ろ冷ましといて欲しいんだけど」
「すみません。氷系は使えないので、それはできません」
アルフレッドは悪びれない。
二人のやり取りを見るに、婚約者は職場で周りと上手くやっていそうで少し安心した。
ハロルドはちょっと軽薄すぎる気がするが、気安い仲のようだ。
「まあいいや。スカーレットちゃんとは仲良くなっちゃったし。
またお話ししようね!」
指をピッと立ててハロルドが歩き出す。
「二人で何の話をしていたんですか?」
「世間話を……」
アルフレッドに聞かれても上手く誤魔化せない。
咄嗟の言い訳が出て来ないのは致命的だ。
「そうですか……」
アルフレッドが少し不機嫌そうで、レッティはますます何を言えばいいのか分からなくなる。
「……あの!」
「……私は上司を宿に送ります。貴女はまだ彼に用事でもあるんですか?」
「えっ!?いや……何も?」
知り合ったばかりで、用事も何もある訳が無い。
何でアルフレッドはそんな風に思うのか。
「ではこれで。体には気をつけて」
アルフレッドの何処か冷たい言い方に、レッティは足を止めた。
二人はあっという間に去ってしまった。
「……婚約者なんだから少しくらい仲良くする努力してよ」
レッティは小さな声で独りごちりながら足元の小石を蹴った。
イイもん。これからテスト勉強で忙しいから。
「困ったな……バレちゃったなぁ」
面倒な事にならなきゃ良いけど……。
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