第25話 ばれた!
「では、これでミスティカ様とニクス様のお二人はアイアンランクに昇格しました。おめでとうございます」
「やったぁ!やったね、ニクス!」
「うん。よかったね」
初心者のウッドランクから、少しずつ依頼をこなしてようやくランクアップ出来た。
実際に活動している冒険者の数は、アイアンランクが最も多いと言われている。
ウッドランクから中々上がる事が出来ない人は、冒険者を諦めて別の仕事に就く人が多いので、意外と数が少ないのだ。
登録数だけならウッドが一番だけどね。
「この調子ならあっという間にブロンズに行けそうだし、ゴールドだってすぐなんじゃない?」
ニクスが相当に調子乗った事を言っているが、実際にニクスの能力ならば冒険者の中でも結構強い方じゃないかと思う。
人間の姿になっていても力は人外のままだし。
そこら辺の冒険者を片手で何メルトルも投げ飛ばすくらいの剛腕だ。
元のオオカミの姿なら牙と爪で尚更敵無し。
勿論、ゴールドランク冒険者相手じゃ勝てない可能性があるかも知れないけど。
でも、ゴールドランク冒険者なんて、国に今は七人くらいしかいないから会う事も多分無いかなぁ。
学園近くの森まではニクスの背中に乗って、赤毛に戻る。
頭巾を仕舞って制服に着替えて、服の皺を手で伸ばす。
お気に入りの黒のリボンで三つ編みを結ぶ。
艶やかな黒は、婚約者の髪と瞳の色を意識している。
「でも、そろそろ学園の方も忙しくなるから少しお休みね。
テストがあるから暫く会えないよ」
『えー!?そんなの酷いよ。つまらない』
ニクスが不機嫌そうな顔をする。
オオカミの顔なので恐怖を感じる人が多そうだが、見慣れたレッティにとっては弟分が癇癪起こしているだけだ。
「テスト終わるまでは一人で冒険者依頼受けていればいいでしょ。
ゴールド目指したいんじゃないの?」
『レッティと一緒じゃなきゃ嫌なのに……』
大きなオオカミがムクれてそっぽを向く。
頭をわしゃわしゃ撫でて機嫌を取ると、すぐに頭を傾けて気分良さそうに目を細めた。
「本当に単純ねぇ」
「わふわふ……」
こういう所は小さかった時と同じ様だ。
「じゃあね、私はもう行くから」
「わふ……」
尻尾までしょんぼりしているニクスを置いていくのは心が痛くなる。
演技だとしたら大したものだ。
最近生意気だし、人間の姿の時はレッティより年上に見えるけど、今でも可愛い弟分なのだ。
レッティは姿が見えなくなるまで何度も振り返って手を振った。
「さて……」
眼鏡を掛ける。
冒険者になってからは学園では眼鏡をなるべく掛けている。
冒険者ミスティカと同一人物と見破る人が少しでも減る様に、素顔を普段は隠しておく事にしている。
……視力も更に落ちてきたし、冒険者はよく体を動かすから眼鏡は邪魔になるのだ。
お陰ですっかり地味だと思われている。
別にいいのだ。パーティなどの然るべき時に着飾り、未来の公爵夫人として相応しい様を見せつければ良いだけのこと。
そして、学園の敷地内に入ると直ぐに声を掛けられた。
「……誰に手を振っていたんだ?」
「ふーん……地味子ちゃんハジメマシテコンニチハ。
綺麗な髪の色してるね」
そこには不機嫌そうな顔をしたアルフレッドと、ヘラヘラと笑う綺麗な顔立ちの男が揃ってレッティを待っていた。
「ご機嫌よう、アルフレッド様……お初にお目に掛かります……レイナー卿」
「なになに?中々帰って来ない婚約者に愛想尽かして、人目につかない所で男と逢引きしてた?」
アルフレッドを横目で見つつ、ニヤニヤしながら第十三騎士団の副団長ハロルドはレッティに近付く。
「違います……」
侮蔑に少し憤慨し掛けたが、ニクスも男と言えば男?雄?なので語尾は弱々しくなる。
でも、ニクスはそういう対象じゃ無いし。弟分だもん。
「あらら……俺、口が悪くてゴメンね?
ちょっと隣にいる真面目君を揶揄いたかっただけだよ。
森の方で何してたの?女の子が一人で行動するのは良く無いな。
ここら辺は魔物も出ないらしいけど、群れとハグれた奴が来るかも知れないし、野生動物も危険だからね」
ハロルドはレッティが少し引いたのを見て、少し友好的な雰囲気を出した。
「俺の事知ってるみたいで嬉しいよ。
俺、ハロルド。よろしくね、スカーレットちゃん」
ファーストネームを呼ばれて少し驚く。馴れ馴れしい人の様だ。
しかし、婚約者の上司なので無碍にもできない。
「はい。よろしくお願いします」
そして、少し頭を下げて上げた瞬間、視界が明瞭さを失った。
「へぇ!凄い美人じゃないか!そんなに目悪いの?
度数はそこまでじゃ無さそうなのに!」
ハロルドが勝手にレッティの眼鏡を奪って、自分で掛けている。
フレームが歪むからやめて欲しい。
「返してください……!」
片手で顔を隠しつつ取り返そうと手を伸ばすが、ハロルドはその手をヒョイと避ける。
「隠す事無いじゃん!……それともアルにそうしろって言われてるの?
地味にして他の男に素顔見せるな〜って。
アルったら独占欲の塊じゃんか」
ハロルドは楽しそうだ。
部下を揶揄うのが楽しくて仕方がない様だ。ハーフエルフで何百年も生きているらしいのに、落ち着きがない。
「いい加減にしてください」
アルフレッドがハロルドから眼鏡を取り上げてくれた。
「ほら、スカーレット」
アルフレッドが眼鏡をそっとレッティの顔に近づけて来たので、素直に顔を少し上向にして大人しく待つ。
「……ちょい待て」
眼鏡を持ったアルフレッドの腕をハロルドが掴んで止めた。
「何ですか?もう悪ふざけはいいでしょう」
アルフレッドの声が苛立っている。上司相手であっても堪忍袋の尾が切れかけているのか。
レッティは訳が分からずに、巫山戯ているにしては真面目なハロルドの顔を見つめる。
目が合った……と思う。
視界が悪いけど、何となくそうだと思う。
ジッと見つめられて……居心地悪さを感じて固まっていると、ハロルドは世にも楽しいモノを見つけた様に口角を上げて破顔した。
「立ち話も何だしあっちに座れる所あったから、ゆっくりお話しようよ」
ハロルドがアルフレッドから手を離して、ようやく視界はハッキリ元通り。
身勝手なハーフエルフのペースに乗せられて、三人揃って学園の中の庭園のベンチまで移動した。
ちらほらと赤い花が綻んでいるが、盛りはまだだろう。
少し離れた所にある渡り廊下を学生たちが賑やかに通り過ぎる。
「良いねぇ、青春!」
学生を横目に見ているハロルドがベンチの真ん中にどっかり座ってしまった。
「ほら、スカーレットはこっちに」
アルフレッドが隣のベンチにハンカチを敷いてくれたので、そこに座る。
「あ、アルフレッド!なんか飲み物持って来て!」
ハロルドはマイペースな様で、アルフレッドをコマ使いにしている。
「はぁ……直ぐに戻ります」
アルフレッドが立ち去った。
レッティはその背中をハロルドと一緒に無言で見ていた。
初対面のハロルドと何を話すべきか、頭の中で考えていると、ハロルドがレッティの顔をジッと見つめられて来た。
「何か私の顔についてます?」
「うんにゃ……髪の色この前と違うじゃん。
目の色は変わってないけどさ。
銀髪も神秘的で綺麗だったけど、赤毛も情熱的で良いね」
レッティは息をするのも忘れて呆然とハロルドを見つめる。
ハロルドは目を細めてニコリと笑った。
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