第21話 作戦開始
キングオークとオークの群れを倒した事で、第十三騎士団は更なる人気を博していた。
特にキングオークを倒した……と言われているアルフレッドの人気は急上昇中。
関連グッズの売り上げは人気ナンバーワンの麗しき副団長ハロルドに迫ろうとしていた。
レッティの周りの令嬢にも、グッズを持ってる子がチラホラ見られる様に。
「スカーレット様はお持ちではないの?」
普段あまり話をしない子達が声を掛けてきた。
グッズと言っても、似てる様なそうでもない様な木や陶器の人形だ。
それなりに出来の良いの似顔絵も中にはあるが、目の前の二人が持っている絵はあまり似ていない。
「ほほほ……私には本物がいますから」
……なんて言ったら嫌味っぽいかしら?
レッティは言ってから少し不安になって、二人組の様子を上目遣いで窺う。
「んまぁ!羨ましい!」
「流石ね」
二人は素直な性格だったらしく、キャッキャとはしゃぎながら、騎士団の誰それがどうのこうのと楽しそうに会話を弾ませて立ち去った。
「ふぅ……」
大人気若手騎士の婚約者として羨ましがられる立場にあるが、実の所、最近レッティは殆どアルフレッドと口を聞いていない。
しかし、アルフレッドのことを聞かれて本当の事を言うわけにもいかず、仲の良いフリをしている。
仲が良く無くても良好なフリをするのも婚約者としての役割なのだが、アルフレッドはまさか未だに婚約破棄を目論んでいるなんて事は無いだろうか?
レッティは恋に恋する乙女である。
アルフレッドの事をそれなりに好きだが、異性としての好きか……そこの所は実はどうなのか自分でもよく分かっていない。
顔はカッコいいと思う。
今まで会った事のある人の中で一番カッコいいと思う。
……ただ、好きだからカッコよく見える!とかじゃ無くて、客観的事実としてアルフレッドは顔が整っているので……自分の気持ちがよくわからない。
――アルフレッドよりも顔の良い人現れたらなぁ、その人と比べてもアルフレッドの方が好きなら、きっと心から好きだってわかるのに!
このままじゃ婚約者を好きなのかそうじゃ無いかも分からないまま結婚の日を迎えてしまう気がする。
でも、恋愛感情があっても無くても結婚は決まってるのだから、なるべく仲良くなっておきたい。
………………と言うお話をミラにしてみた。
ここはミラのお屋敷。
学園から馬車で少し移動した先にあるワイズ子爵家にお邪魔している。
シンプルな外観だが、立派な屋敷はワイズ子爵家が歴史ある家である事を肌身に感じさせる。
「んー……それなら貴女から仲良くなれる様に働きかけても良いんじゃない?同じ趣味を持つとか」
ミラはお茶を啜りながら真摯にアドバイスをしてくれる。
うう……持つべきものは友よね。
「でもね、アルフレッド様ったら碌な趣味が無いのよ。いっつも鍛錬、鍛錬なの。
それは良い事だけど……」
レッティも鍛錬は欠かさないけど、アルフレッドも騎士としての鍛錬を理由に実家にも顔を出さないのだから重度の鍛錬マニアだ。
「でも、レッティだって剣術得意なんでしょ?」
披露する事は無いが、こっそり冒険者からの騎士ルートを目指していることまでミラには相談済みである。
……お義母様は騎士は許して応援してくれても、荒くれ者の多い冒険者は許してくれなさそうだから、公爵家ルートには相談出来ないのだ。
「でも、アルフレッド様はリディアお義母様の様なたおやかな女性がお好きなの」
確かそんな事を言ってた……気がする?
「そうなのね……何か情報がもっと欲しいわね。
貴女のことをどう思ってるのかしら。
周辺から聞き出すか、変装でもして本人から直接聞ければ…………」
ミラが唇を尖らせながら腕を組んで黙り込む。
考える時の癖らしい。
レッティもアルフレッドが自分をどう思っているのか気になるし、どうして自分と結婚するのが嫌なのか知りたい。
…………変装かぁ。
「変装…………してみようかしら?」
本気のレッティの顔を見て、ミラが吹き出す。
「ちょっと、冗談なのに。
貴女の髪の色は目立つもの。カツラが必要になるわよ。
それに顔も流石に婚約者ならわかるでしょう?
いつもと違う眼鏡でもしてみるつもり?色付きにするとか?
それなら仮面でも被った方がマシよ。
蝶々の仮面とか似合うと思うけどね」
ふふふ……とミラは喋りながら想像上のレッティの姿で笑い始めた。
しかし、レッティはカツラなんか無くても、眼鏡や仮面じゃ無くても変装できる手段があるのだ。
「後は……その姿でどこで会うのがいいか」
兜で顔を隠すなら、戦いの場以外は不自然だ。
…………ついにレッティも冒険に出るべき時が来たらしい。
「ミラ……ありがとう。
私、アルフレッド様のこと探ってみようと思う」
正体がバレる心配は……あるかな?
いざとなったら顔を隠しながら逃げれば大丈夫かな。
「ええ!?本気なの……?まあ、止めはしないけど、無茶はしないでね」
ミラは驚いているが、レッティは自分の将来の為にも一歩踏み出してみる事にした。
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