第16話 入学式

 そして入学式。


 真新しい制服を着て颯爽と繰り出す。

 ハナがいない今はあまり凝った髪型には出来ない。真っ赤な髪の毛は自分で一本の三つ編みにした……あまり複雑な髪型は無理だったのだ。

 先端のシンプルなデザインの黒いリボンが風に翻る。

 優雅に静かに歩き、その歩調に合わせて三つ編みも緩やかに揺れる。


 上級生の男子が足を止めてほけーっとした表情でレッティに見惚れているが、それには目もくれなかった。

 今日はお楽しみ、なんとアルフレッドが入学式にくるらしい。

 し・か・も!在校生代表の挨拶はアルフレッドであると言う情報を得ているのだ。

 

 その情報源のレッティの友人第一号が、後ろから小走りで近づいて来た。


「レッティ!ご機嫌よう!」


「ミラ、ご機嫌よう。淑女が走ってはダメよ」


「いっけない!」


 ミラはテヘッと舌を出す。

 レッティはそれを見て頬が緩む。


 ミラ・ワイズ子爵令嬢。

 寮のすぐ隣の部屋になった子だ。

 アッシュブロンドの緩やかに波打った髪の毛に、少し眠たげな垂れ目の明るい茶色の瞳の持ち主だ。

 大人しそうな見た目とは裏腹に、人懐っこく、彼女からレッティに話しかけてくれた。


 物怖じしないようで、何日かで親しく話す仲の令嬢が何人も出来たようだが、なんやかんやでレッティの側に一番に来てくれる。


「レッティ、貴女アルフレッド様の挨拶楽しみにしてるでしょう?

 有名人よね。それにとても人気があるわ。

 しっかりしなさい、ヨソの家柄だけの女の子に盗られないようにね!」


 どうやらミラもレッティに負けてない耳年増の様だ。


「アルフレッド様はお淑やかな女性がお好きなの。

 私、負けない様に頑張るから。ミラは私を応援してくれるわよね?」


「もちろんよ。任せて」


 ミラはフフンと自信ありそうに笑ってみせる。

 頼もしい。

 レッティも未来の公爵夫人として自らを鍛えてきた。どこの誰とも知れない有象無象に負けるなど自らに許してはいない。


 式が始まる。

 学園長先生のなが〜〜いお話。

 議員先生のありがた〜いお話。

 レッティはその全てを優等生顔でちゃんと聞いた。


 ちゃんと聞いたけど……内容はそんなに覚えてない。

 そしてついに!アルフレッドの姿が壇上に!

 

 ――制服がよくお似合いだわ!

  顔が良いのは本当にお得ね!


 レッティは婚約者の凛々しい姿に大満足だ。

 歩き方も堂々として美しいのは体幹がよく鍛えられている証拠である。

 きっとレッティが知る頃よりもずっと強くなっているのだ。

 未来の夫に負けない様に精進しないと!


 レッティは入学式に決意を新たにした。他の新入生達とは全く違った方向性の決意であったが。


 

 

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