第15話 寮にきたよ

「レッティ……辛くなったらいつだって帰ってきて良いのよ」


 ムギュッとリディアお義母様がレッティを抱きしめる。


「大丈夫です。お義母様、きっと素敵なレディになってまいります。

 それに長期休暇にはこちらに戻ってきますから」


「本当に?ちゃんと戻ってきてね。

 アルフレッドったら休暇になっても学生寮に篭ってこちらにはあんまり帰ってこないんだもの。

 気をつけてね……いってらっしゃい」


「はい、いってきます!」


 馬車に乗り込み手を振る。

 お義母はいつまでも手を振ってくれている。


 ハナは荷物を持って一緒に馬車に乗っている。

 寮では一人で過ごすことになるが、荷物自体は多いので、こうしてハナに生活がスタートする準備だけは手伝って貰うのだ。


 学園は王都からだいぶ離れた場所にある。

 たしかどこぞの子爵家が管理している。

 敷地は大変に広い。

 ここでは学問も武術も魔法もマナーもダンスも貴族として生きていくのに必要な知識の全てが学べる場所だ。

 他国の王族や貴族とも共に学ぶ事が出来るので、人脈作りの方を重視している家が多い。

 


「わあ!広いわね!自然が豊かだわ!」


「はい。美しい場所ですね、お嬢様」


 はしゃぐレッティをハナは微笑ましげに見る。

 ――いけない。今のは少し子供っぽかったかしら。

 でも、ハナしかいないから今だけは良いんだもん。


 レッティは空色の瞳でこれから生活をする学園を見つめた。

 お城の様な荘厳で歴史ある佇まい。

 遠くに、魔法の光が空に弾けて七色の光が拡散するが見えた。

 

 馬車の窓からレッティが好奇心いっぱいに顔を輝かせているのを、ハナは優しく見守ってくれた。

 

 そして、寮に着く。

 ここも中々歴史深そうだ。

 でも、よく掃除が行き届いているからか、古さは感じても心地良さそうな空間だった。

 

 お仕着せを着た高齢の女性がにこやかに馬車から下りたレッティ達に挨拶をする。


「いらっしゃい。遠くからお疲れでしょう。

 アタシは寮母のイレーナと申します」


 優しそうな様子に気持ちがほぐれる。


「ご機嫌よう。ラッセル・ロイドの長女、スカーレットと申します。

 今日からお世話になります」


「ああ……伯爵家のラッセル様は覚えてますよ。

 学園時代はヤンチャでいらっしゃったわね」


 ――そうなの!?


 今は落ち着きのある父の昔の話が出てきて、興味をそそられたが、今は荷物を運び込むのが優先だ。


「まあ、興味深いですわ。今度ぜひお聞きしたいわ」


 ほほほ……とレッティは優雅に笑って見せる。


「ええ、ええ……是非。では、部屋まで案内しますね。こちらはどうぞ」


 のんびり歩くイレーナ。

 そして、部屋の前まで来ると後は頭を下げて去っていった。


 ドアを開けると、その中は何も無い部屋だった。


「少し……狭すぎませんか」


 レッティをすぐに甘やかそうとするハナは、実家や公爵家のレッティな部屋の数分の一しか無いことに不満そうだったが、レッティは気に入った。


「これから少しずつ好きな物を飾ったりできるのね。とっても素敵!」


 レッティはいそいそと荷物の中から小さなアルフレッドの絵姿を取り出した。

 アルフレッドがまだ幼い時に絵師に描かせた物らしく、リディアお義母様におねだりして持ってきたのだ。


 ――ふふふ……お澄まし顔しちゃって!かーわいい!

 

 その後はハナがテキパキと動いてくれて、あっという間に部屋は快適に過ごせる様になった。

 レッティの学園での生活が始まる。

 学園では寮に入り、一人で身支度をしなくてはいけない。

 例え王族であろうともそれは例外では無い。


「お嬢様……頑張ってくださいね。

 休暇には帰ってきてください。ハナとの約束ですよ。

 それと、怪我はしないように。危険なことは避けてくださいね」


 ハナがギューッとレッティを抱きしめる。

 レッティも負けじと抱きしめ返す。


 そして、何度も何度も別れを惜しみながらハナは帰っていった。


「行っちゃった……」


 これで、レッティはこれから自分一人での学園生活がスタートする。


 でも、お義母様やハナと離れるのは寂しいが、同時にレッティはワクワクしていた。


「よーし!お友達作るぞ!」


 何と言っても友人は神獣のオオカミ達しかいないようなものだったのだ。

 レッティは希望に満ちていた。

 握り拳を一人天に向かって突き出したその姿は、理想とする淑女にはまだまだ遠そうではあったが。

 

 

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