第13話 騎士とは

 アルフレッド様は暫く休暇を実家で過ごされた後に、春の訪れの前に学園に戻って行った。


「いってらっしゃいまし」


 レッティは可能な限りお淑やかに頭を下げた。

 未来の夫の女性の好みがリディアお義母様ならば、レッティは頑張ってその様に振る舞うのみである!


 そして、その日からは更なる淑女教育を施してもらった。

 その結果、何とかお淑やかと言っても差し支えはない程度に仕上がった。

 リディアお義母様も認めてくださっている!


 ――うふふふふふ…………!

 これでもう後は年齢だけ上がればいつでもアルフレッド様と結婚できるわね!

 そうすればリディアお義母様とずっと一緒に居られるし、フェンリーやニクスのいる森のそばで暮らせるのだ。

 レッティは既に父親の為、家の為ではなく、自分の為にもアルフレッドと結婚しようと心に決めているのだった。


 鏡の前の自分を惚れ惚れと見ながら、ほくそ笑みそうになるのを、自らの表情筋を意識の完全なる支配下に置くことで、貴族令嬢の控えめで女性らしいものに変換している。


 レッティは何事もやるからには全力なのだ。


 ハナがレッティの髪を編み上げてくれている。

 

 鏡の前に座るレッティは、本人が自意識過剰になっても多少は無理も無いくらいに美しい成長を見せている。

 実家に帰ることはあっても、公爵家で長きに渡って教育を受けただけあって、どこに出しても恥ずかしく無いレディーがそこにはいた。

 

 婚約者の家に長期滞在をする様になって早いもので四年。

 12歳になったレッティは、少女の愛らしさを保ちながら美しく花開こうとしていた。

 パチリと大きな空色の瞳を微かに伏せた表情は見事の一言。

 燃える様な赤毛は、秘めたる情熱そのもの。

 平均よりも小さかった身長は、この半年でグングン伸びた。

 それに体つきも少しずつ成長し、小柄な幼い少女から魅力的な女性への階段を少しずつ上がってきている。

 


「本当にお嬢様はお美しいです。日々輝きが増していくよう」


 ハナが今日も褒めてくれる。

 昨日も一昨日も毎日褒めてくれているが、それでも褒められるのは嬉しい。


「公爵夫人て相応しい淑女にならないといけないもの」


 そしてレッティも、もうそろそろ学園に行く年頃になったのだ。

 ……しかし残念ながらアルフレッドは今は殆ど学園にはいらっしゃらないそうだ。

 


 アルフレッドは15歳で現在最年少の騎士となった。


 騎士団には幾つか種類があるが、アルフレッドが所属するのは第十三騎士団だ。


 第十三騎士団は特に危険な国内の魔族や魔獣の拠点の調査を主に行なっている。

 調査だけではなく、積極的に人里を襲う魔族を討伐しに行くことが多い事から、数ある騎士団の中でも国民からの人気が高い。

 団員の見た目が良いからだなどと言う口さがのない人もいるが……。

 

 騎士団長をはじめ、団員の名前は国内外に広く知られているし、入団したてのアルフレッドの名前も早速国中に轟いている。

 ……女性人気が高いという噂があるが、レッティはそんな婚約者が誇らしい気持ちがありつつも、少し面白く無い様なモヤモヤした気分だったりする。

 


 そんなアルフレッドだが、近年の魔物の大量発生を受けて、騎士団の仲間と共に兵士を率いて討伐に向かわないといけないらしい。

 その為にレッティは最近顔を合わせていない。

 

 因みにアルフレッドの学業の方だが、学園の方の成績は常にトップだった事、そしてアルガー公爵家への配慮もあり、学園側も既に必要な学問は修得していると見做してくれている。

 休学しても、成績に悪影響が出ない様にしているそうだ。


 レッティはガッカリだ。

 せっかく同じ学園に通うのに、あまりお会いする機会が無いとは。

 婚約者となって数年経っても、心を開いて貰えない事に、レッティは焦りを覚えていた。

 もしかして、レッティはあまり魅力的に思えないのだろうか?お義母様やハナは顔を合わせるたびに可愛いって言ってくれるのに。

 

 それに、心配もしている。

 最強の騎士団だし、魔力で身体強化も出来る筈なので、魔物討伐もそんなに心配するものでも無いかもしれないが、万が一という事はある。


 ――私も助太刀に行けたら良かったのに。

 アルフレッド様がピンチならきっと駆けつける。

 私は変身すればとても速く走れるし、ニクスが協力してくれるなら、どんな魔物も体当たりで吹き飛ばせるはず。


 ケモ耳モードならレッティは既に相当な強さだった。

 後は変身後に魔族に間違われて討伐されない様に気をつける必要はありそうだが。


 しかし、その他にも問題がある。


 ――アルフレッド様は戦う女性は好きじゃ無いかも知れないわ。

 だってリディアお義母様は戦うどころか、あんまり沢山歩くと熱を出してしまわれるもの。


 レッティは直接試験を受けて騎士になる道に拘らず、こっそり身分を隠して冒険者として武勲を立てる道を模索している。

 実力があれば騎士団の方から勧誘が来る事があると聞いたのだ。

 先ずは冒険者としての名を上げて、戦場で未来の夫の役に立ち、こっそり騎士になってしまえば良い。


 いや、騎士にならずとも、同じ戦場に居られればそれで良い。

 その上で、表面上は可愛くて、か弱い妻としてアルフレッド様の幼妻になる予定だ…………完璧!


 ――私はこんなに淑女になったんだもの。

 やり遂げてみせる!


 レッティのやる気は十分である。

 色々と無理がありそうな雑な計画だったが、とにかくやる気があるのは良い事に違いない。

 

 


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