第12話 アルフレッドと剣術
次の日にはエバン先生にアルフレッドと一緒に剣術の稽古を受けることになった。
「先生……貴族の女性に剣術は不要ではありませんか?」
アルフレッドは開始早々にエバン先生に言った。
やっぱりレッティが騎士を目指すのに反対らしい。
でも、それは仕方がない。
レッティはあんまりにも何もかも半端な子供だからだ。
とにかくレッティは頑張って実力をつけて、認めてもらえるまでにならなくてはいけない。
レッティはアルフレッドと仲良くなりたいのだ。
騎士になれば沢山一緒にいられるし、そうすればきっと仲良くなれるはず。
エバン先生は困った様な顔で、太い眉毛を寄せて、頭をポリポリと掻いた。
「なるほど……アルフレッド様は、女性は貞淑であるべきとお考えなのですね」
「いえ……母上を見て育ったので、それを否定は出来ませんが、続ければ大怪我をする危険もあります。
魔法で治しきれずに見える場所に傷跡ができるかも知れません。
それに戦争が始まった時に、下手に実力があると噂になっていれば、女でも戦場に立たねばならない可能性もあります。
剣術もとなれば、後方支援ではなく前線に立たされるでしょう。
実例は何件かありますし……」
――!!!
もしかして、アルフレッドは未来の妻の身を案じて!?
そして、どうやらリディアお義母みたいなたおやかで淑やかな女性が好きな様だ。
アルフレッドの前ではなるべく貞淑に過ごそうと心に決めたレッティだった。
レッティは騎士の前に仲良し夫婦を目指しているのだ。
なんなら隣に居られるなら、騎士でなくても良い。
レッティはアルフレッドが心配していてくれた嬉しさでニマニマしそうになる顔を、一生懸命におすまし顔に保った。
これも淑女教育の成果である。
「そうですね……でも、才能がお有りなのは本当なんです。
私であれば怪我はしないように気をつけられますし、実力を外部に知られない様に配慮する事も、奥様と相談すれば可能だと思います。
元々スカーレット様は護身用に始めましたし、奥様の御意向もあるので、貴族のご令嬢としての今後に不都合が生じない様に気をつけさせて頂きます。
……では、今日の授業を始めますね」
エバン先生はアルフレッドの話を聞いて、一部取り入れつつも、ちゃんと指導は続けてくれるつもりの様で、レッティは安心した。
レッティは今、アルフレッドとエバン先生の打ち合いを見学している。
アルフレッドの鋭い踏み込みを、エバン先生は僅かな動きでいなしている。
アルフレッドがフェイントを入れて模擬刀を首筋に叩き込もうとするが、それを見越した動きで防がれてしまう。
なるほど……今までは他の人の打ち合いを第三者の視点から見る事は無かった。
フェンリーとニクスが人間の姿で二人で訓練したりする事もこれまでなかった。
……そもそもあの二人は元の姿の方がずっと強いから、人間の姿になるのは、あくまでレッティに合わせてくれているだけだから。
エバン先生との打ち合いも勉強になるが、どちらかと言えば、家にいることの少ないアルフレッドの戦い方を見ておきたい。
後で、エバン先生にそうお願いしておこう。
「次はスカーレット様ですね」
エバン先生がレッティを呼んだ。
よし!アルフレッドに実力を見てもらおう!
でも、はしたないって思われたりしないよね?
「……私が相手をしましょう」
アルフレッドが進み出た。
「アルフレッド様!?」
エバン先生が驚いている。
――アルフレッド様……もしや、先生がレッティと仲良しなのに嫉妬して!?
「えへ、あたし……私、アルフレッド様に稽古つけてもらうのでも良いですよ」
模擬刀を構え直して進み出る。
体格的にはアルフレッドと人間版のニクスが同じくらいか。
慣れた体格差とはいえ、男女差、年齢差、体格差を考えれば勝てはしない。
でも……少しは実力を知って貰わなくては。
「では、よろしくお願いします」
それから、30分後。
「ふぅ〜。男の人ってやっぱり強いねぇ」
レッティの自室。
レッティはベッドにゴロゴロしながら、自分の腕に治癒魔法を掛ける。
「アルフレッド様は年下で女の子のスカーレット様に、そんなに本気でやったんですか?」
ハナの眉がキリキリと吊り上がっている。
お怒りの様子だ。
「ううん。かなり手加減してくれてた。
でも、一回一回打ち合うごとに、手が痺れて模擬刀手放しそうだったよ。
うーん……強いアルフレッド様カッコ良かったね」
レッティはうっとりと、アルフレッドの勇姿を思い出して、ニンマリと幼女らしからぬ不気味な顔で微笑む。
やはり見た目が良いのは正義だった。
それに、アルフレッドはレッティを少し認めてくれたのだ。
――貴女が遊びでなく、訓練に取り組んでる事はわかりました。
しかし、貴女は戦わなくても豊かに生きていけるのですから安全な所にいるべきです。
……今後は護身術として取り組んで行くのなら私も賛成します。
これはもう、つまりはあれだ。
アルフレッドがレッティを守って安全な所に置いといてくれるって意味でしかないだろう。
――もう!旦那様ったら素直じゃ無いんだから!
カッコいい夫に守られる美しく貞淑な妻となった自分を想像して、レッティはベッドの上でジタバタした。
レッティは残念な程に耳年増で妄想が激しかった。
実家に置いてあった本の種類が良くなかったのかも知れない。
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