第11話 レッティ泣く

「一緒に騎士になるだと!?ふざけるな!」


 ――――バシンッ!


 アルフレッドがテーブルを両手で叩きながら立ち上がる。

 何故か怒っている。


「アルフレッド!

 どうしてレッティに優しく出来ないの!?

 それに、別にレッティが騎士を目指したって構わないでしょう!?」


 いつだって優しく穏やかなリディアお義母様が珍しいくらい大きな声でアルフレッドを叱りつける。


「母上!私は本気で騎士を目指しているんです。魔族との戦うつもりです。

 それをこんな小さな女の子に馬鹿にされては!」


「馬鹿になんてしてません!あたしも剣術を一生懸命頑張ってるんです!」


 レッティは懸命に真面目にやっている事をアピールする。

 エバン先生がいらっしゃらない時だって、次までの課題を出してもらって、ちゃんとこなしているのだ。

 人間に化けたニクスやフェンリーにも一緒に打ち合いをして貰っている。


 フェンリーにだって、なかなか素質があると褒められたし、ニクスは……まだ勝てた事ないけど、その内ニクスにだって勝つつもりだから、本当に本当の本気だ。

 治癒魔法しか出来なかったのが、身体強化魔法も少しは上手くなってきた。

 ……銀髪オオカミ耳の方になる方がずっと力が強いけど。


「食事のマナーすらまだまだ、言葉遣いも令嬢として身に付いてないあなたが……騎士に?甘ったれるな!」


 アルフレッドの険しい眼光にレッティは怯む。

 

「アルフレッド!謝りなさい!レッティはまだ幼いのよ!」


 アルフレッドの言葉にグサリと胸を貫かれる。

 確かに、貴族として必須のマナーすらまだ十分と言える程には身に付けていないレッティ。

 そんなレッティが騎士になる事を望むのは烏滸がましいのか。


 そして、レッティは優しいお義母様の「幼い」という言葉にも少しショックを覚えていた。

 レッティは年齢なんて関係なく、才能があって頑張っているから、既に大人の様に認められているつもりだった。

 でも、やはり今のレッティは子供でしかない。


 子供だからとマナーが半端でも許されるし、まだまだ何もかも未熟でもお義母様に庇われる。


 レッティの空色の両目に沢山の涙が溜まってきた。

 なんでも出来るつもりだった。

 でも、まだ何も出来ないのに子供だから許されてるだけだった。

 

 恥ずかしい。

 恥ずかしい。

 自分の思い違いが恥ずかしい。


 レッティは瞬きしない様にして、涙を目の中から出さない様に頑張った。

 でも、無駄だった。

 重力に逆らえずに、涙がポロリと零れ落ちる。


 それを見て、アルフレッドがギョッとした顔をした。


「な、泣く事ないだろ!」


「スカーレット!……可哀想に!」


 お義母様がレッティを抱きしめる。

 涙は後から後から溢れてお義母様のドレスを濡らした。


 レッティはしゃっくり上げながら、必死に言葉を紡ぐ。


「ごめんなさい……ごめんなさい……。

 泣きたくないのに……勝手に……!

 あたし…………私……強くなります。マナー……身に付けます。

 ちゃんと……淑女……なります。

 明日から……もう……泣きません……!」


 レッティは立派なレディーになる事を決意した。

 もちろん剣術もコッソリ続ける。

 完璧で最高の淑女になって、アルフレッドの隣に並ぶ。

 レッティに大きな目標が出来た。


 アルフレッドに自分を認めさせる事。

 レッティは、この思いをこれから先もずっと大事に抱えてこうと決意を固めた。

 

 

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