第10話 一緒に武の高みへ
アルフレッドはそれから3日程寝込んでしまった。
ハナがレッティの為に他の人から話を聞いて来てくれたが、どうやら自力で玄関前まで戻ったと言う事になってるらしい。
意識朦朧としながらなので、どうやって崖を登ったかは不明。
でも、とにかく本人が帰って来ているのだから、みんな細かいことは気にしないようで、レッティはホッとした。
もようやく食事の席に顔を出してくれるようになった。
「本当に元気になって良かったわ」
リディアお義母様もとても嬉しそうだ。
「いえ……寝込んでしまった分、体が鈍ってしまったので鍛え直さねばなりません」
「まあ!アルフレッド様はとっても真面目なんですね!」
「別に……」
レッティが感心して声を掛けたが、アルフレッドは冷たい顔で端的に返事する。
レッティはムムッとする。
――あたしのモフモフ尻尾に身を埋めて、寒いのに寝ちゃおうとしたくせに!
レッティはアルフレッドに怒りたくても、顔がカッコいいから怒り損ねてしまう。
レッティはぷくーっとほっぺを膨らませるだけで、不満の表明をするに留めた。
意地っ張りな婚約者様に対して、レッティまで意地を張ってはいつまでも仲良くなる事なんて出来ない。
「まあ、アルフレッド!レッティにもっと優しくなさい。
あなた達はいずれ夫婦になるのよ?」
リディア様がアルフレッドを嗜める。
「そんなの……何年も後ですし、スカーレットの気持ちも今後どうなるか分からないじゃないですか。
私達は年が離れてますし。
……私は何も分からない小さい子供を幼い内から洗脳する様に親元から引き離すのは反対なんです」
確かに、お互いの家の都合によっては婚約破棄もなくはない。
しかし、外聞も悪いし破棄する側がそれなりに相手に金銭的なものも含めた賠償もしなくてはいけないので、婚約破棄というのは実はかなり大変な事だ。
だから殆どの場合は、そのまま結婚する事になるのを幼いレッティも知っている。
耳年増だからね!
「まあ!そんな事言ってひどいわ!
それにたったの三年差なんて、今は気になっても成長すれば直ぐに気にならなくなるわよ。
ごめんなさいね、レッティ。
そんな事には絶対にさせないから。
それに洗脳なんて……」
「大丈夫です、お義母様。
アルフレッド様に相応しい妻となるよう、一層の努力をしますから」
「レッティは本当に良い子ね!貴女は自慢の娘よ!」
リディア様とレッティでほんわかした雰囲気を出していると、アルフレッドが言いにくそうに口を開く。
「あの……母上……」
常に不遜な態度のイメージがあるアルフレッドが随分と殊勝な声だ。
「銀髪の女の子ってここら辺に住んでいるんですか?」
レッティはドキッとした。
やはり雪の中助けた事を覚えているのだ。
「銀髪の女の子?
いいえ……多分いたら目立つはずだろうし、記憶しているだろうから……。
それより、銀髪の女の子がどうしたの?まさか……レッティがいるのに浮気なんて……!」
リディア様が少し怖い顔でアルフレッドを見る。
「いいえ!違いますよ!勘違いしないでください!
ただ……私が倒れていた時に声を掛けてくれた女の子がいた気がして。
その子に助けられたならお礼を言おうと思ってるんです。
雪景色の中、風に舞う銀髪と、不思議な銀色の毛皮を纏っていたこと以外は顔も良く覚えていないのですが……。
少し年下かも……いや、そもそも人間では無かったのかも」
それを聞いてレッティは嬉しくなった。
――あたしが助けたのを覚えてらっしゃるのね!
ふふふ……正体がバレるわけには行かないけど、感謝されてるのはとっても嬉しい!
「そうなのね……。
でも、年下の女の子が貴方でも遭難した吹雪の中で、どうやって貴方を助けたと言うの?」
「それは……そうだ。
大きな白いオオカミがいたんです。
私くらい楽に咥えて運べそうなくらい大きな……。
もしかしたら、その狼を使って私をここまで運んでくれたのかも知れません」
――耳と尻尾のことは毛皮か装飾品とでも思っているのだろうか。
それとも意識がハッキリとしてないから上手く覚えていないのかも。
レッティは可笑しくなって笑ってしまうのを堪えるのが大変だった。
しかし、次の言葉を聞いてまた少しばかり心臓が縮み上がりそうになった。
「そう……言えば瞳の色を見たんです。
魔法で灯した光の中で明るい青い綺麗な瞳でした」
「もう!レッティの前で他の女の子の話ばかりしないでちょうだい。
デリカシーが無くてごめんなさいね、レッティ。
でも……もしかすると、その狼は神獣の類かしら?きっと魔獣とは違うのよね。
だとすると貴方が見たという女の子は神の遣いのような存在かも知れないわ。
貴方が神の加護を受けたというのは、とても喜ばしいことね。
教会への寄付を増やしましょう。感謝を示さなくては」
レッティはもちろん神の遣いでは無いが、ステラに力を与えてくれるコアの元の持ち主スコルは神獣だった。
神獣は神の加護を受けた存在で、人間を襲い、討伐対象である魔獣とは違うとされている。
違うとされているが、見た目での区別は難しいらしい。
スコルは多分魔獣と勘違いされて殺されてしまったんだろう。不運な事だ。
「……それで、今日から訓練を再開する予定です」
レッティがボンヤリと考え事をしているうちに話題が移っていた。
「まあ、もう少しのんびりすれば良いのに」
「いえ、三日も寝込んでいたせいで体がすっかり鈍ってしまいました。
私は早く騎士になりたいんです。そして……魔族の住む地域の調査に行きたいんです」
アルフレッド様のその言葉を聞いて、リディアお義母様がチラッとレッティの方を見る。
「騎士……ねぇ。
本当は騎士になったとしても、ただ一人の正式な公爵家の跡取りだから危険な事は避けて欲しいのだけど……武をもって国を支えて来た家系の男の子だものね。
危険は避けられないのよね。
……ねえレッティ、そろそろアルフレッドに言ってもいい?」
「何をですか?」
「うふふ……騎士候補が我が家から二人も現れたことよ」
リディア様はとても誇らしそうで、レッティも嬉しいのと気恥ずかしいので、はにかむ。
「騎士候補が二人?何のことですか?
私の他に誰が……?」
アルフレッドが訝しげな顔をする。
――そういうお顔も素敵……。
「誰って、ねえ?……うふふ」
リディアお義母様が意味ありげにレッティを見る。
「まさか……そんな訳……」
アルフレッドが信じられないという顔をして、レッティを見る。
――もしや、同じ道を歩む武人として仲良くなるチャンスでは!?
「えへへ……アルフレッド様、一緒に武の高みを目指しましょうね!」
――言っちゃった!きゃっ!
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