第8話 ハナに明かす
「お義母様!」
レッティは寝着のまま、リディアお義母様の部屋にノックもせずに飛び込んだ。
「レッティ……」
「お義母様!!」
レッティは大好きなお義母様を抱きしめる。
「レッティ……きっと大丈夫よ。今は信じて待ちましょう」
とは言ったものの、お義母様はその後も元気が無いし、食欲も無いようだった。
レッティもアルフレッドが心配だったが、ある決意を胸に、無理矢理にでも出された物は完食した。
いつもだったら食べない苦手な野菜も全部食べ切った。
窓の外を見ると、ますます風は雪を吹きつけて、10歩先も見えないような有様だ。
「奥様……!」
執事のトマスが慌てた様子でお義母様に近寄り、何かを耳打ちする。
「ああ……そんな!」
お義母様がふらりと倒れ込む。
「お義母様!」
レッティも慌てて近づく。
顔色がだいぶ悪い。
「捜索隊を出します!必ずや坊ちゃまを探し出しますとも!私も向かいます!」
そのトマスの言葉にお義母様は首を振る。
「いいえ……嵐が少し収まるのを待つべきよ。
今行けば無駄な犠牲を増やすだけ……」
「そんな……」
レッティは使用人達に促されて自室に戻る。
しばらく待つとハナが部屋を訪れた。
「お嬢様……アルフレッド様が遭難したそうです。
お教えするかどうか迷ったのですが、お嬢様は利発な方です。知っておいた方がいいと思って……。」
ハナによるとアルフレッドは従者と共に馬に乗って家に帰ってくる途中、風吹で視界が悪くなって遭難してしまったそうだ。
そして、アルフレッドの乗っていた馬が脚を滑らせて、崖のようになっている所から落ちてしまったのだと言う。
幸いにして、従者が上から声を掛けたらアルフレッドは返事をしてくれたそうだ。
そして、従者は一人ではアルフレッドを助けられそうに無いからと、馬を懸命に走らせ公爵家に先ほど辿り着いたのだ。
ハナも普段はアルフレッドがシャイでレッティにあまり話しかけて来ない事に憤慨しているが、命の危険すら感じる吹雪に流石に気が気では無い様子だ。
「ハナ……私がもしも……普通の女の子じゃなくても、今まで通り仲良くしてくれる?」
レッティはハナの目を真っ直ぐに見る。
ハナはレッティを受け入れてくれるだろうか。緊張で口の中が乾いてくる。
「何をおっしゃってるんですか?
スカーレットお嬢様は普通じゃなくても……、どんなお嬢様も私の大好きなお嬢様ですよ」
ハナは安心させるようにニッコリと笑った。
レッティの大好きな笑顔だ。
「あのね……あたし、神獣のコアをお友達にもらったの。
それで……モフモフの耳と尻尾に変身できるようになったの」
レッティは意を決して言った。
しかし、ハナにはよく理解できないようだった。
「それはどう言う……?」
「驚かないでね!あたし、モフモフ耳と尻尾の犬……じゃなくてオオカミ人間に変身できるの!」
「変身……ですか?」
不思議そうな顔のハナ。
説明を聞いても理解は難しい様子。これは見せるしか無いだろう。
「見てて!」
ぼふん……。
「お……お嬢様!?」
いつも冷静なハナが口を手で覆って大きな目をさらに大きく見開いて驚いている。
レッティは銀色の大きなオオカミの耳をピコピコと動かしてみせる。
スカートをたくし上げる尻尾もブンブンと振ってその場でクルリと回る。
サラサラの長い銀髪が体の回転に遅れて広がり、重力に引かれてフワリと落ちる。
「どうかな?驚いちゃった?」
少し恥ずかしげに発せられた言葉に、ハナがようやく我を取り戻す。
その空色の瞳が確かに自分の愛するお嬢様だと気がついたようだ。
「お嬢様……?」
レッティは元の普通の人間の姿に戻った。
髪の色もサッと赤く色付く。
「びっくりしたでしょ?あたし……アルフレッド様を助けに行くから」
「そんな!お嬢様!危険です!!」
ハナはレッティに縋り付くようにして、止めようとする。
「大丈夫!変身すると寒さには強くなるし、オオカミのお友達もいるの。
助けて貰おうと思う。
もう決めたの。ハナじゃあたしを止められないよ。
それでね、ハナにお願いがあるの……」
レッティの真剣な眼差しを見て、ハナは少し俯いた。その後、覚悟を決めた顔をした。
「ハナはお嬢様の味方です。できる事は何でもします。
何をすれば良いでしょうか?」
ハナはいつも通りの優しい笑顔を浮かべる。
レッティはぎゅっとハナに抱きついた。
いつだって優しいハナはステラにとっては姉のような存在だ。
この大好きな姉を悲しませたりはしない。ちゃんとアルフレッドと共に戻ってくるつもりだ。
「あのね……アルフレッド様の匂いがする物を持って来て。
お友達に匂いを辿って貰って必ず見つけてくるね!」
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