第4話 エバン先生が褒めてくれる

「スカーレット様!大変素晴らしい!

 アルフレッド様も天才的でしたが、スカーレット様の才能は決して劣りはしません!」


 エバン先生が手放しで褒めてくれる。

 ――えへへ……そんなに凄いのかな?あたしってもしかして天才?


「もしかしたら、魔法剣士となって女性であっても騎士団に入ることも可能かもしれません。

 平民であれば冒険者なんて道もありますがね。

 アルフレッド様は騎士となって魔族の調査をしたいとおっしゃっておいででしたが……」


「本当ですか!?魔法剣士ってカッコいい!あたしも頑張ります!何を頑張ったら良いですか!?」


 レッティは勢い込んでエバン先生に詰め寄る。

 ――女性剣士なんてカッコいい!

 それに、アルフレッドと同じところで働いてみたいも……なんて考えてたり。

 騎士か……悪く無いね!


 実は……恋物語も大好きだけど、騎士物語も結構好きなのだ。

 というより、恋物語の相手役が騎士であるパターンはかなり多く、お姫様と騎士の禁断の恋……とか!攫われたヒロインを騎士が助ける……だとか!夢が広がる無限のシチュエーションの中に騎士はいた。

 そして、中でも大好きなお話にスカーレットという名前の女の勇者が王子様を助け、共に魔法の剣で魔族を倒し愛を深めるお話があった。

 名前が同じなだけあって没入感が他とは違い、レッティは剣を握った女の人にちょっと憧れがあったりしたのだ。

 今までは単なる遠い世界の憧れだった女剣士スカーレット。

 だが、現実のものになるかも知れないとわかると、俄然やる気が出て来た。


「先ずは身体作りです。よく食べてよく寝てください。

 ……筋肉量が多い男性と比べると、女性は身体強化魔法は効きが悪いでしょうから、剣術で身を立てるのは苦労があると思います。

 しかし、スカーレット様はその分絶大な魔力量があると伺ってますので、男性に負けない強さになれる可能性があります」


 エバン先生がニッコリ笑って答えてくれた。

 よく食べて、よく寝る……良かった!どちらもスカーレットが得意とするところだ。

 

 確かに身体強化魔法は女性は基本的に苦手な為に、戦いに関わる職種は男性が多い――その分珍しい魔法属性持ちは女性に多いらしい――しかし、レッティは銀髪状態になる事で、身体強化魔法無しでも、十分な動きができる。

 それに、エバン先生の言う通り、効きが悪いだけなら魔力量でゴリ押せば良い。


「それなら簡単です!あたし、頑張って剣士を目指します!」

 


 ♢♢♢♢♢

 


 エバンはかつては冒険者としてその名を馳せ、その後は戦場で武勲をたて、一代限りの男爵となった。

 その後に、幸運にもアルフレッド小公爵の剣術指導を行うことになったのだが、あの少年の才能には舌を巻いた。


 冒険者時代には、ベテランとして若手を何人も指導してやった事もあるし、その頃の若手も今やトップクラスの冒険者として、多くの若者の憧れとなっている。

 しかし、その中にもアルフレッド程の才覚の持ち主はいなかった。


 僅かな間でも、そのアルフレッドを教えられたのは幸運だった。

 アルフレッドならば剣聖として、国から認められるかも知れない。


 そして、残念に思っていた。

 アルフレッドは次期公爵として、貴族として学びを得るために学園に通わないといけない。

 まだまだ教えたいことは沢山あったのに……。


 そして、リディア様のご厚意で、小公爵の婚約者に護身術として、剣術を教える事になった。

 

 冒険者に戻る道と悩んだが、老後を考えて給金が高く、身の安全が保証された公爵家に残ったのだ。

 ……もしかしたら、アルフレッドが休暇にでも戻ってきてくれれば、今一度教えるチャンスもあろうかと期待した面もある。


「ここに残って本当に良かった」


 まさか、アルフレッドと同等の才能に出会えるとは。

 しかも相手はアルフレッドの婚約者の幼い令嬢である。

 お転婆と聞いていたが、機敏で身体の使い方を本能的にわかっているようだ。

 あとは基礎を大事に教え込めば……。


 エバンがアルフレッドの師となれたのは、彼が十歳となってからだった。

 今、スカーレット伯爵令嬢は今八歳だ。

 これからどれくらいその才能を伸ばせるか非常に楽しみでならない。

 勿論、女性だから苦労も多いだろう。

 身体強化魔法は魔力持ちなら誰でも使えるが、その効果は筋肉量と魔力量に、基本的に比例する。

 筋肉を付けるのは難しくても、魔力量は抜群に多く、しかも年々増大しているそうなので、男女差を覆す事は可能だろう。

 アルフレッドは類稀なセンスで少ない魔力での身体強化魔法の効率的な運用を得意としているが、他の人が参考にできる物ではないので、スカーレットには説明はしなかった。


 スカーレットに騎士団にと言ったのは、おべっかでも何でも無い。

 冒険者……という道は、流石に貴族の令嬢には無理だろう。

 あまりに荒くれ者の無頼漢ばかりなので、あの綺麗な顔立ちの少女にはお勧めできない。

 

 エバンが望みながらも届かなかった武の極み。国から与えられる剣聖の称号……。

 今の国王の代になってからは一人も与えられていない。

 しかし……もしも、教え子二人が成れたなのなら……。


 エバンは新たな人生の楽しみを見つけた。

 そして、自らも二人の天才に相応しい師匠でなくてはならない。


「よし、俺も鍛え直さないとな!」


 エバンは今一度、基礎から自分自身を見つめ直し始めている。


「俺の人生これからだ!」


 エバンは剣の素振りから始める。

 その瞳は未来に見出した希望に輝いていた。


 


 


 

 

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