第3話 願い

「アルフレッド様いってらっしゃいませ!」


 レッティは愛らしく元気に未来の旦那様をお見送りした。

 旦那様はこれから貴族の子女の通う学園に行くのだ。

 そこで生涯に渡る友を得て、アルガー公爵家跡取りとしての立場を固めるそうだ。


「レッティもそのうち通うようになるわ。

 でも、同じ学年じゃ無くて残念ね。レッティもここでは同じくらいの年の子がいなくて寂しいでしょう。早くお友達作りたいわよね」


 お義母様は息子が寄宿舎生活になる寂しさよりも、レッティの心配をしてくれている。

 

 「大丈夫です。お義母様がいるし、ハナもいるから寂しくなんてありません!」


「まあ、レッティは何て可愛らしい事を言ってくれるのかしら!」


 リディア様がぎゅーっとレッティを抱きしめる。


「お義母様くるしいです!」


 息ができないー!


「あらあら、ごめんなさいね」


 そう言って、今度は優しく抱きしめなおしてくれる。レッティもキュッと抱きしめ返す。

 あったかくて良い匂い。


 それに、レッティにはちゃーんとお友達がいるのだ。

 今日もお勉強が終わった後に遊びに行く予定!

 もう少し仲良しになったら、ハナには紹介するつもりだけど、お義母様はレッティのお友達の事どう思うかなぁ。


「そうそう、今日からレッティには新しい先生が付きます。

 アルフレッドには反対されてたけど、あの子はしばらくは帰ってこないんだもの。

 しばらくは秘密にしましょうね」


「はい!」


「ふふ……良い返事ね」

 


 執事が、リディア様の目配せを受けて、新しい先生を連れてきた。

 この人見たことある!


「貴女に剣術を教えてくれる、エバン先生よ。

 アルフレッドにずっと教えてくれてたんだけど、アルはもう学校に行ってしまったものね。

 今後は貴女に護身用に教えてもらおうと思ってるの。

 アルはそんなの要らないって煩かったけれど……レッティはどう?やってみない?」


 リディア様がしゃがみ込んでレッティと目線を合わせて、意向を聞いてくれた。


「もちろんやってみたいです!」


 お転婆なレッティは、男の子と遊んだりするのも大好きだったし、アルフレッド様が剣術を習っているのを、コッソリ盗み見るのが大好きだったのだ。



 

 日々の生活はさらに慌ただしくなったが、レッティは充実した日々を過ごしていた。

 お勉強したり、剣術を習ったり、未来のお義母さまと偶にお茶をしたりする以外は、相変わらず森を駆け巡る。


「いくよニクス!」


 レッティは白いもふもふを追いかける。

 母親のフェンリーを助けてあげてから、すっかり一番の仲良しの友達になって、暇さえあれば一緒に遊んでいる。


 より少しレッティ小さいくらいだったニクスは、既にレッティよりも大きくなっている。

 ニクスを抱き枕にお昼寝するのは、まさに天上にいるようだ。


 ニクスももっと大きくなったらフェンリーみたいにお話ができる様になるんだって。

 レッティはそれを聞いてとても楽しみにしている。


「はやく大きくなってね」


 レッティは声を掛けながら、ニクスの長い雪の様な毛をブラッシングしてあげている。


「わふ!」


 ほっぺをベロリと舐められた。

 へへへ……ベトベトだ。

 レッティは袖でゴシゴシと顔を拭う。


「そろそろフェンリーのところにゴハン持ってかないと」


 よっこいしょと立ち上がり、パンや干し肉の入った籠を持ち上げる。


「わふん!!」


 ニクスがフサフサの尻尾をブンブンと振る。


「持ってくれるの?ありがとう!」


 籠をニクスに咥えてもらって運ぶのはお任せする。


「ふんふんふーん♪ふふんふーん♪」


 適当に今考え付いた鼻歌を歌いながら、フェンリーのいる神殿までニクスに連れて行ってもらう。

 木漏れ日の中、小径をスキップで進むと、赤いポニーテールも揺れる。

 それをみて、ニクスも尻尾を同じようにリズムを合わせて揺らす。


 どうして子供の足でも行けるようなところに住んでるのに、どうして公爵家の人はフェンリー達に気が付かないのか以前にフェンリーに聞いてみたら、神殿の力で招かれたものしか行けないんだって。



「わふわふ!」

「きたよー!」


 フェンリーはレッティの回復魔法ですっかり傷も良くなった。

 怪我は他所の森に行った時に気性の荒い魔物の群れに襲われてしまったそうだ。


 そして、こうして会いに来ると、いつも楽しいお話を聞かせてくれる。

 昔出会ったエルフの話や、精霊のお話。それに人間の王様を助けて一緒に戦争で敵を倒したお話。


「ねえねえ、また旅のお話聞かせてよ」


 レッティはボフンとフェンリーの毛の中にダイブしつつおねだりする。

 籠に入っている食べ物はお話のお礼の貢物だ。


『またか……。レッティはそんなに私達の旅の話をが好きなのか』


「うん!私もフェンリー達と一緒に色んなところに行きたいなぁ」


 レッティはフェンリーの上によじ登って、大きな白い三角形の耳を触る。

 良いなぁ耳も尻尾も可愛いよね。

 フェンリーはくすぐったそうに身を少し捩った。

 

『一緒に……か。

 ……オマエには命を救われた。だからイイものをやろう。ついて来い』


 そうして、のそりと起き上がると神殿の方に近づいて行く。

 そこの扉はレッティが力いっぱい頑張っても開けられなかった。


「そこ、開かないよ」


『オマエではな……』

 

 フェンリーが扉の前に行くと、重い音を立てながら石の扉が勝手に開いた。


「わあ!すごい!」


 レッティははしゃいで、フェンリーの脇をすり抜けて内部に入る。


 そして、思ったよりも広い空間には、大きな骨があった。


「うわぁ、おっきい骨!フェンリーよりおっきいよ!」


 振り向きながらフェンリーに声をかける。


「わふ!」


 ニクスもレッティのそばに来た。


『それはスコル……ワタシのツガイの骨だ』


「ツガイ?結婚相手って事だよね?死んじゃったんだ……悲しいね」


 ニクスのお父さんか…………。


 頭の骨には立派な装飾の剣が刺さっていた。


「あの剣で死んじゃったの?」


『ああ……でも、カタキはとったよ』


 よく見ると人間の骸骨もある!

 鎧を着ている。鎧のサイズやデザインから何となく女の人なのかなって思った。

 


「どうやって人間はここに入ったの?」


『それだけ凄いニンゲンだったのさ。

 スコルがニンゲン達を弱らせて無ければワタシも倒せなかった……』


 フェンリーはどこか遠い目をする。

 昔のことをお話ししている祖母も同じ様な目をしていたとレッティは思った。


 レッティが骨にもっと近づくと、不思議な光を放つ大きな宝石が輝いていた。


「あれは?」


 レッティ振り向きながら、その石を指差す。


『あれはコアだ。

 それも数百年を生きた偉大な神獣スコルのコアだ。その力は様々な願いを叶えるだろう。

 ワタシはそれをニンゲン達から守ってきた。

 でも、今はニクスもいるし、いつまでもここに居続けることはできない。

 ならば……我らの友人に、命の恩人にそれを託したい』


 許可をもらえたようなので、ステラは早速コアを両手で大事に抱えてみる。

 不思議な暖かさを感じる。


『それで何でも……では無いが、それなりにお前の願いを叶える力になってくれるだろう。

 例えば……』


 ――願いが叶うのかぁ。それならどうしようかなぁ。


 レッティはコアの輝きに目を奪われてフェンリーの言葉を碌に聞いてはいなかった。


「お願いかぁ……それなら、私はフェンリーとニクスと一緒にこれからもずっとたくさん一緒にいたいなぁ。

 私もフェンリー達とモフモフ仲間だったら、良かったのに。

 私もフワフワの尻尾と、大きいぴょこぴょこ動く耳が欲しい」


 レッティが心に浮かんだことをそのままに呟いた時、白銀の光がコアから溢れ出した。


『な……何が……!?』


 フェンリーが驚きの声を上げる。

 

「なんか……あったかい」


 不思議な暖かさに包まれて、レッティはまた眠くなってきてしまった。

 レッティは抵抗も無くモフモフに包まれる夢の中に入って行った。

 

 

 

 

 


 


 

 


 


 

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