12 馴染むというのは想像以上に遠い道のり

 ダアクック。


 ボク等が向かう街の名前だ。

 この大陸には街が五つあり、その街ごとに五人の英雄が治めているという。

 その街の一つであり、多様な種族やその文化が賑わう豊かな街だとダインは言った。


 そこを治める英雄の名はガルダリア。

 甲冑を纏った大男であり、自身の背と同じ大きさの盾を使い、戦った英雄。

 その手に持つ盾で、あらゆる災悪から民を守るのだとか。


 その石像が目の前にある。

 街の中心の巨大な広場にでかでかと置かれたその石像は、高さ一〇メートルほどある。台座を含めればそれ以上。

 これほど巨大で自信に満ちた石像を建てるガルダリアという英雄は、よほど自己顕示欲が強いと見える。

 ボクには理解できない感性だ。


 けれどこれほど目立つ分、待ち合わせ場所としては申し分ない。

 現に広場には多くの人がいた。

 皆広場で待ち人の到来を望むように石像を眺めている。

 そしてボクとフェリーも、ダインとシルワアを待っていた。


 本来であればダイン達に街を案内してもらう予定だった。

 しかしダイン達は今回の森の主云々で用事ができてしまい、案内は少し待って欲しいと言われてしまった。


 ならばシルワアに案内を頼もうとしたが、彼女も手持ちの毛皮やらなんやらを換金する為に市場に行く用事があると言って、一人行ってしまった。


 彼女について行こうとしたが「迷子二人、探す、億劫」と言われ、ここで待つようにとのこと。

 フェリーはともかく、ボクも迷子になることに納得できない。


「石像、デカいな」ボソッとフェリーが言う。


「暇なのか?」


「最初は造形とかしっかり見てたさ。ただ、三〇分も同じものを見てたら、誰だって飽きるだろう?」


「同意するよ。だから石像の傷を数えながら眺めてる」


「……」


「……」


 しばらく沈黙。

 また、口を開く。


「……この石像、ボク達の世界で言うところのハチ公前って奴なのだろうか」


「絵面的にはお台場のガンダムだけどな」


「アンちゃん達、待たせたな」


 後方から声。

 振り返ると、手を振るダインがいた。

 さらにその後ろにはセシアちゃんやバウアー達が見える。

 どうやら用事を終えて来たようだ。


「あら、嬢ちゃんの様子が見えねえな。迷子にでもなっちまったか?」


「ああ、逆逆。オレ達が迷子になるからって一人で狩った動物の毛皮を売りに行ったの。おっ、でも丁度帰って来たみたいだぜ」フェリーは左を指差す。


 先を見ると、毛皮が高く売れたのか、ホカホカとしたオーラを纏ったシルワアが歩いて来る。

 顔はいつも無表情だが、纏うオーラが顔よりも心情を語ってくれる。それが彼女の愛嬌だった。


 そんな彼女の手には、何やら串が握られていた。

 見たところ、食べ物のようだ。


「お留守番、おみやげ」


「お、こいつはありがて……げぇ⁉」


「シルワア、ありが……どぉ⁉」


 ボクとフェリー、ありがとうの最後が喉に引っかかり、言い切ることができなかった。というのも、彼女が買って来てくれたものというのが、何というか、想像の斜め上……いや斜め下を行っていたからだ。


 串と言われて思い付く食べ物というのは、一体どんなものだろうか。

 王道でいえば焼き鳥、串カツ。そういうものだろう。

 お祭りに行けばから揚げやポテトなんかも串で販売しているだろうし、おでんでいえばタコや牛すじもある。


 個人的なことを言うのであれば、ボクは団子が好きだ。あれもまた串に刺さっている食べ物だからね。


 しかし、今目の前にある物体はそうではない。

 そこに刺さっていたのは……巨大な幼虫であった。サイズ感で言えばカブトムシの幼虫くらいの大きさだ。


「エビの身みたいに刺さってるけど……これ、エビじゃないの? というか、むしろエビであって欲しいんだが」


「エビ、違う。これ、ヤマシラコ。うまい」


「じゃ、じゃあ食ってみるか」


「いくのか、お前⁉」


「男は度胸! いざ、いただきます!」


 フェリーは丸々一匹、口にした。

 一口かじるという選択肢もあったろうに、丸々いくとは。宣言通りである。


 ボクなら多分、小さく一かじりが限界だ。現代人にはパンチが強すぎる。

 異世界慣れした人間とボクの差って奴なのか。

 もしそうなら流石、ボクよりも一〇〇年早くこの世界に暮らす先輩だ。

 適応が早い。


 もぐもぐと食べるフェリー。

 すると急に口が止まり、動かなくなる。

 大丈夫なのか?


「……ま……」


「ま?」


 やはりマズいのだろうか。


「うんまあああーーーい!!」


「ええ⁉ うそ、マジか」


「トロっとした身はクリーミーで、ホントに白子みたいな食感で脂みたいなこってりさが最高だ。それに加えてこの表面に付いているスパイスっていうのがパンチが効いているけど爽やかで、鼻からスッと抜けていく感じがヤマシラコのくどさを引っ張ってくれていて相性抜群だ!」


 なんでそんなに食レポが上手いんだ、こいつ。

 悔しいが、少し気なってしまうじゃないか、くそ。

 自分も恐る恐る一口食べる。


「……ホントだ、うまい」


「だろ? うわあ、こりゃオレのお気に入りの食べ物リストに登録だな!」


「お、おう」


 確かに味はうまい。

 この味だったらおつまみとして最高だと思う。

 けれど、どうしても見た目に引っ張られる。味をプラス一〇だとするなら、ルックスはマイナス一〇で合計〇だ。

 何が言いたいかというと、見ているだけでお腹がいっぱいということ。


 自分が異世界に馴染むのはまだまだ時間が掛かりそうだということを、ボクはこのヤマシラコを見て、しみじみ思うのである。

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