第4話 神集め
腹を抱えて笑っていた章がようやく落ち着いたころ。
「ってことで、ミツト、今日からよろしくな!」
亜芽がミツトに手を差し出した。
(握手・・・?)
「ああ、うん。よろしく」
ミツトが亜芽の手を握ると、亜芽は嬉しそうに笑った。
すぐさま手汗が滲んできたので、ぱっと手を放す。
「というか、これは何に対してのよろしくなの?」
これはもしかして女子と仲良くなるチャンスだろうか。
聞いてみると、そのままぱあっと花が咲いたような笑顔で、当たり前のように、
「コイビトに対してのよろしく!」
と言ってのけた。
亜芽の発言を聞いた章は目を見開き、マジかよ、と呟いた。
「え・・・?ちょっと待ってそれってどういう」
「仲良くなるには、まず自己紹介からだよな!私は炎亜芽『ほむら あめ』だ。好きなものは饅頭で、嫌いなものはあんまりない」
亜芽は、きらきらとした目をミツトに向けた。
(これは、僕も言わなきゃいけないやつだよなぁ)
ミツトと亜芽の関係について訂正しようと思っていたのだが、そんなに期待に満ちた目で見られると要望に応えて自己紹介したくなる。
「僕は、明里ミツト『あかざと みつと』。好きなものは和食と友達で、嫌いなものは生まれたときからスペックが高い人」
章から、嫌なやつだ・・・。という視線を感じるが、ミツトのような人間はどうしたって出来がいい人に嫉妬してしまうものだ。仕方ない。
自己紹介が終わったところで、ずっと黙って見守っていた章がようやく口を開いた。
「亜芽。ちょっと来い」
章が小さく手招きすると、「どうしたー?」と言って亜芽が章のもとへ、てくてくと駆け寄った。
それから、二人でこそこそと話した後、亜芽は、今度はこちらにてくてく歩いてきた。
「ミツト!明日の朝、一緒に登校してくれないか?」
亜芽は小さく折りたたんだ紙をミツトに渡した。
恐らく、住所が書いてあるのだろう。ミツトはその紙を受け取った。
「うん、分かった。あとさ、僕は君に、つ、付き合ってって言ったんじゃなくて・・・」
ミツトが訂正しようとしたのを遮るように、章は一際大きな声で「じゃ」と言った。
「細かいことはまた明日話そうか。俺らのことも話さないとだな」
それだけ言うと、章は返事も待たず先に歩いていった。
まだ帰るには早い時間帯だが、用事でもあるのだろうか。
当然のようにそれについていく亜芽を、ミツトはただ見送ることしかできなかった。
「え、僕、まだ大事なこと言ってないんだけど・・・。って、もういないし」
誰もいなくなった屋上に用はない。ミツトも家へと歩みを進めた。
* * *
翌日。
着替えなどの諸々の準備が終わり、ミツトがいつも通り自宅でまったりと朝食を採っていると、家のインターフォンが鳴った。
「はいはーい」
ミツトの母親が早足で玄関に向かった。
しばらくして、驚いた顔をした母親がリビングに戻ってくると、眠気も吹っ飛ぶようなことを言った。
「ミツト、うちの家の前にやたらかっこいい男がいるんだけど、友達?」
もしかしなくても章のことだろう。
どうして僕の住所を知っているのだろうか。
「うん、友達ではないかな」
「・・・あんたまさか、かれs」
「変な方向に誤解しないで!?」
「じゃあ何なの?」
ミツトに彼女ができたとかそういう話はあまりしたくなかったが、勝手に章とくっつけられるほうが最悪だ。背に腹は代えられない。
「僕の彼女の、友達だよ」
口にしてみると、今更実感が湧いてきた。
(そうだ、僕はいま、彼女持ちの人生勝ち組なんだ)
一瞬、きらんと母親の目が光った気がしたので、何か聞かれる前にご飯を口に押し込んで鞄を持って早足で玄関に向かった。
「いってきまーす!」
がちゃりとドアを開けると、そこには眠たそうに目をこすっている章の姿があった。
「・・・はよ」
「おはようございます」
「おはよー!!」
ミツトが章に挨拶を返すと、章の後ろで飛び跳ねながら挨拶をする少女の姿が見えた。
髪や瞳の色がなぜか黒くなっている。カラコンつけたり、染めたりしていたのだろうか。にしたって、あの見事な赤色の髪は染めたものとは思えない。
「おはよう。えっと・・・」
この場合、名前で呼ぶべきなのだろうか。いや、流石に馴れ馴れしい気がする。
やっぱり苗字にしたほうが・・・。
そんなミツトの心を読んだかのように、
「亜芽だ!」
と自身の名前を言った。
これは、亜芽と呼べということなのだろうか。
「おはよう、亜芽ちゃん。・・・ところで、雷先輩。昨日、『俺らのことも話さないと』って言ってましたよね?あれってどういうことですか?」
「ああ、それを説明するためにわざわざ一緒に登校しようって話になったんだ。
つっても、俺も詳しくは知らねえんだけどな。亜芽、説明してくれ」
亜芽は、楽しそうに話を始めた。
「私は、昔一緒に暮らしてた神様たちを探してるんだ」
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