第2話 紹介
二年五組の教室。後ろから二番目、右から三番目の机。
ミツトは、多少鼻声の友人と話をしていた。
「ミツト!彼女欲しくね?欲しいよなぁ!」
小動物の如く周りをぐるぐるしているのを見ていると、目が回りそうだ。
これを止めるのがミツトの日課だ。
「うん。欲しいよ。欲しいけど、とりあえず落ち着いて」
「おお!」
ピタリと止まったかと思うと、今度は机を叩いて目をキラキラと輝かせた。
「じゃあ恋バナしようぜ!」
「ええ・・・」
こんな女子だらけのところで恋バナするのか。
ミツトが渋っていると、廊下のほうから声が聞こえた。廊下には、二つの人影があった。
「ここだよー」
「悪いな。貴重な休み時間、こんなことに使わせちまって」
「全然!気にしないで、先輩のためなら休み時間くらいいくらでも使う!」
一人は同級生の女子生徒。
「お礼は、また明日の昼休みにたっぷりと、な」
そしてもう一人は、昨日会ったクズだ。
「きゃー!いいの!?」
「ああ。元々、明日はお前のために空けてたんだよ」
(ホストかこの野郎!)
廊下のやりとりを聞いていたのか、友人は章を指さして怒鳴った。
「あんな軟派なやつがモテてなんで俺らがモテねえんだよ!!おかしいだろ!」
ミツトもそれに呼応するように応える。
「それはおかしい。僕らが階段裏を秘密基地と呼んでひっそり食事を敢行しているとき、奴は堂々と自分の机で女子に囲まれあーんされながら『このあと私と一緒に空き教室にでも行かない?』とか言われて奪い合われてるんだろ畜生!」
友人と二人で話し合っていると、先ほどの女子生徒がミツトに話しかけてきた。
「ミツトくん、先輩が君のこと探してたんだって」
「え、僕?」
「うん」
女子生徒は頷くと、「それじゃ」と言って席に戻った。
ミツトが廊下を見ると、章は微笑んで手を振った。
隣をみると、固まっている友人がいた。
「ミツトぉ!いつからあいつとつるんでたんだ?まさかお前もそっち側・・・」
「じゃないから!昨日割り箸貸してもらっただけだから!」
未だ友人の疑いの目を受けているが、事実なんだから仕方がない。
ミツトは、腹を括って章の元へ行くことにした。
廊下へと続くドアを開けると、そこにいた章に向かって手招きをした。
章は不思議そうにミツトに近づく。ずいと歩み寄った章を咎めるように見つめる。
(こう見ると、身長差が明確だ・・・)
そりゃそうだろう。身長に関しては、お世辞にも高いとは言えないくらいミツトと、誰もが認める高身長イケメンだ。
章の目を見ようとしたら、自然に上目遣いになってしまうほどの身長差。
だがミツトは怯むことなく章を睨んだ。
「なんで来たんですか?」
「だって昨日約束しただろ?『また明日』って」
なおのこと不思議そうに首を傾げる章を、依然睨みながら続ける。
「じゃあ、なにをしに来たんですか?わざわざ可愛い子を連れて非モテ男のもとにやってきたからには、それ相応の理由があるんでしょう?」
「あー、すまん、そこまでは考えてなかった。その代わりと言っちゃあなんだが、
いい話がある」
「いい話?」
ミツトが首を傾げる。
「彼女、欲しいんだろ?紹介してやるよ」
章はけろっとした顔で、とんでもないことを言った。
「え、いやいや!?しょ、紹介って・・・」
「俺の友達のダチが、彼氏欲しがってるんだと。俺もそいつの彼氏探しに協力しろって言われててな。お前に頼みに来たってわけだ」
クズということで約束などは基本守らないイメージがあったが、よく知らない人の彼氏探しとかちゃんと協力してくれるのか。
もしかしたらすごくお人好しなのかもしれない。
クズなのに。
この性格があるからこそ、相手には本命がいるにも関わらず本気になってしまう女子が多数いるのかも・・・。
(にしたって、なんで僕なんだよ)
その子のためにも、もっとかっこいい人に頼むべきだろう。
「雷先輩にも顔がいい友達くらいいるでしょう。友達と言っても、『まともな』友達ですけど」
友人といえば、ミツトの友人がさっきからこっちをガン見している気がする。
それとなく教室内を確認すると、友人だけでなく、皆一様に章のほうを見て話題にしているようだった。
男子生徒からは妬みや恨み、女子生徒からは嫌悪感や憧れを含んだ視線が感じられた。
章は正直かなりの男子生徒に恨まれている。
その様子を見て、ミツトは普段より少しだけボリュームを下げて章に話しかけた。
「もしかして、『まともな』友達がいないんですか?」
章は、悲しそうにうなだれ、弱々しく、呟いた。
「いや、一人だけいる。一年生のダチだ。・・・学校ではあんま会話してねえけど」
なんだか申し訳ないことをしてしまった。
だが、これは数々の女子を虜にした代償だ。どう見ても自業自得なので、励ましはしない。
「じゃあ、相手に連絡しとくから」
そう言ってオトモダチであろう女子に声をかけに行った姿を見ると、もうちょっとだけ痛い目見てもらいたいと心の底から思った。
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