神集めっ!
クライラク
第1話 始まりの屋上
少女は、廊下ですれ違った一人の男子生徒を目で追い、立ち止まった。
このとき既に、彼女が平凡な青年の一生を狂わせることは、もう決まっていたのかもしれない。
「ついてないなぁ」
希望岩高校、二年五組からため息を吐きながら出てくる人影がひとつ。
ミツトは、いつも一緒に昼食を食べる友人が休んでしまい、一人寂しく弁当を頂くことにした。よりにもよって箸を忘れた日に。
頑張れば手だけで食べることは出来るが、流石に人の前でそれはできないということで、屋上で弁当を食べようと屋上へ向かっていた。こんな雨の日にわざわざ屋上でご飯を食べる人はいないだろう。
三階には一年生のクラスがずらっと並んでいる。いつもなら、そこを通る勇気などなく、学食で済ませていた。
だが、今日はミツトの好物が入っている日だった。
(つくづく、ついてないよなぁ)
一年生がうじゃうじゃいる中を、やや早足で屋上に向かった。
屋上には、出入り口付近にだけ屋根がつけられていて、そこにぎりぎり収まって弁当箱を開けるミツトの姿があった。
「いただきます」
ミツトは、焼き魚入りの弁当を見て、にやにやと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
焼き魚に手を伸ばしかけたところで、がちゃり、とドアの音がした。
(誰だろう?)
ミツトは焼き魚に手を伸ばすのを止めた。
次いで、ドアの方から声が聞こえた。
「お前本気で言ってんのか!今日雨だろ!?お前は外行けないからな!?」
ミツトより低めの、男子生徒の声。
まるでその声を隠すように、雨がより一層激しく音を立てた。
「でも、こっちのほうに・・・・・・・・・。あれは絶対・・・・・・!」
今度は、女の子の声だ。痴話げんかかと思ったが、少し違うらしい。
「お前が外に・・・・・・・・・だろ?巻き込むなよ」
もう一度、がちゃりとドアの音がした。
どうやら二人は屋上から出ていったようだ。
ミツトは、今度こそ焼き魚を食べようと弁当箱に手を伸ばし・・・。
「なあ、お前。」
また中断させられた。
いきなり真横で聞こえてきたのは、さっきの男子生徒の声だった。
「はい?」
驚いて声のしたほうを向くと、少し焦げた肌色で整った顔をした青年がいた。
(うわ、イケメン・・・。じゃなくて、この人は)
「い、雷先輩・・・」
そこにいたのは、いろんな女子と遊んでいるという噂の雷章『いかづち あきら』だった。
ミツトのクラスの近くでもよく見かける。見るたびに違う女子を連れていた。
クラスで盗み聞きした話によると、章は所謂そういうことをする専門の友達、ということらしい。
ちなみに、一ヶ月ほどそんな関係でいると本気になってしまう女子が三人に一人の確率でいるらしい。よほど性格が魅力的なのか、それとも他になにか利点があるのか。
(まあ、あれだと思う。世間一般で言うクズってやつ)
ミツトは、ここまで時間が空いたのに、続きを話す素振りのない章を見て「あの・・・」と声をかけた。
「僕の顔に、なにかついてるんですか?」
じっとミツトを見据えていた章は、やっと我に返ったらしく、
「あー、悪い。あまりにも似てたから」
と言って黙り込んだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
二人の間に気まずい沈黙が流れた。
「雷先輩?なにか用があったんじゃ・・・」
「いや、なんか、話しかけてみただけっつーか、昼飯の邪魔したみたいだな。じゃ俺はそろそろ・・・」
章は、立ち上がろうとしたところで「ん?」とミツトの手元を見る。
「お前、箸は?」
「今日、お箸忘れちゃって。もう手で直接いこうかなと」
「箸、貸そうか?」
「いいんですか?雷先輩のお箸なくなっちゃうんじゃ・・・」
「ああ、俺割り箸5セット持ち歩いてるから大丈夫だ」
章の手には、恐らくスーパーの弁当についてくる割り箸がある。
さっきまでなかった気がしたが、気のせいだろう。
「なんでそんなに持ってるんですか」
「俺の知り合いにちょっと忘れっぽい奴がいるんだ。その上そそっかしいから、すぐ落とすんだよ」
章は「どうぞ」と言いながら割り箸を持っているほうの手を差し出す。
知り合いというのは、例のオトモダチのことだろうか。
かといって断る理由もないのだが。
「ありがとうございます」
割り箸を受け取ると、章は満足そうに笑って校舎内へと続くドアを開けた。
「それじゃあ、また明日」
バタンとドアの閉まる音が響くと、屋上にはミツト一人だけとなった。
「いただきます」
手を合わせて感謝を告げると、いよいよ弁当を食べ始めた。
(『また明日』って、僕の名前も知らないくせに)
どうせもう二度と話さないが、珍しい人種だったので一応記憶に残しておく。
それにしても、彼と話していた間の懐かしさは何だったのだろうか。
二度と会わないような人の事をいつまでも考えていてもしょうがない。
ミツトは目の前の弁当に集中することにした。
神集めっ! クライラク @kurairaku
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