第60話 これからのジラール国

ブラウエル国との決別が済んで、

ジラール王国として独立する動きが本格的に始められた。


公爵家の屋敷は改築されて王城と呼ばれるようになった。

ブラウエル国がなくなったことで多数の平民が逃げてきたため、

ジラール王国に住む人の数がかなり増えた。

その分、平民をまとめる立場の者が必要になってくる。


父様と伯父様は信頼できる者たちを貴族とすることにした。

領地と王都の屋敷で働いていた使用人は、

それぞれの仕事に見合う爵位を持つことになった。

パトとデニスは侯爵に、それ以外は伯爵以下が授けられた。


私兵たちは隊長が伯爵位、それ以下の部隊長は子爵、私兵たちには騎士爵。

領地運営の実務を担っていた者たちも相当の爵位となった。


父様が国王、母様は王妃、私は王女。

伯父様は王兄であり宰相、ルシアン様は王族で私の婚約者と公表された。



そして、ブラウエル国から独立して五か月目になり、

父様と母様のお披露目と結婚式が執り行われた。


中庭での結婚式は精霊たちが踊り騒ぎ、何もないところから花弁が降り注いだ。

うれしそうな父様と母様の周りを、精霊たちがはしゃいで騒いでいる。

どうして中庭で結婚式をするんだろうと思っていたけど、

あちこちで飛びまわる精霊たちを見て納得した。


式が終わった後、父様たちは部屋に戻っていった。

私はまだ気持ちが落ち着かなくて、ルシアン様と中庭をぐるりと散歩する。


手をつないで歩くだけだけど、それだけで楽しい。

お披露目までは忙しかったから、こうしてゆっくり話すのは久しぶりだ。


「ニナ、俺たちの結婚式も中庭じゃないと無理そうだな」


「ええ、そうね。きっと精霊たちははしゃぐもの」


「花びらだけならいいけど、他にも何かしそうだな」


「ふふふ。宙に浮かなければいいけど」


私とルシアン様の結婚式は一年後と決まった。

父様は私がニ十歳になるまで待たせるつもりだったようだけど、

ルシアン様が待てないと言って話し合った結果、一年後になった。


「はぁ。あと一年も待たなきゃいけないのか」


「まだ言っているの?そんなに早くしたかった?」


「ああ、俺は今すぐにでもニナと結婚したい」


「どうして?」


見上げたら、ルシアン様が困ったようにため息をついた。


「……わかっているのに、言わせるのか?」


「わからないから聞いているのに」


早く結婚したいとは何度も言われているけれど、

どうして早く結婚したいのかは聞いていない。


理由がわかれば、私から父様にお願いすることもできたのに、

何もわからないから二人の話し合いには口を出さなかった。


ルシアン様は質問には答えず、

私を抱き寄せて肩に頭をのせてくる。


重さはないけれど、ルシアン様の息が首にあたって少しくすぐったい。


「ニナをもっと近くで感じたい」


「え?」


「起きている時だけじゃなく、夜もずっと。

 朝起きてから寝ている間も、ずっとそばにいてほしいんだ」


「もしかして、それが早く結婚したい理由?」


「そうだ」


なんだ。そういう理由だったなんて。

笑ったら、ルシアン様は少しすねてしまったようだ。


「怒らないで。そんな理由ならすぐに叶えればいいのに」


「ん?」


「一緒にいましょう?寝る時も、ずっと」


結婚しなくても一緒に眠ればいいのに。

そう思って言ったのに、ルシアン様に深いため息をつかれた。


「……ニナは言っている意味がわかってない」


「わかっているわよ?」


「一緒に寝るだけじゃすまないんだぞ」


「だから、わかっているのに」


「は?」


驚いて顔をあげたルシアン様に軽く唇を重ねる。


「だって、父様と母様は私を結婚する前に作ったのよ?

 ルシアン様と私だって、守る必要ないでしょう?」


「……それはそうだが、いいのか?

 結婚もしてないのに……気持ちの準備とか、いろいろあるだろう」


「……それは気持ちの準備は必要かもしれないけど、

 結婚まで我慢しなくてもいいってこと。

 少しずつ、私が慣れるまで待ってくれる?」


「わかった。少しずつ、一緒にいることに慣れていこうか。

 ……怒られるときは俺が謝るから」


「大丈夫よ、きっと母様がなんとかしてくれるもの!」


父様のことが大好きで、ブラウエル国に帰るのが不安で、

結婚する前に父様と関係を持った母様。

父様を誰にも渡したくない、そう思ったからだったんだと思う。


きっと私がルシアン様と離れたくなかったと言えば、

呆れるかもしれないけど、最後には許してくれるはず。


「じゃあ、部屋の用意をさせないと」


「ルシアン様の部屋で寝るんじゃないの?」


「結婚したら二人で使う部屋が用意されているんだ。

 そこに荷物を移すようにパトに言っておこう」


「うん」


部屋を用意させるのが待ちきれなかったのか、

ルシアン様は私を抱き上げて近くにあったベンチに座る。


使用人たちが慌てて走っていったから、パトに知らせてくれるだろう。


ルシアン様の胸に頬をぴたりとつけるようにしていると、

心臓の音が大きく聞こえてくる。

髪をなでていた手が頬にそえられると、自然に上を向いてしまう。


もう何度目か数えられないくらい口づけをしたのに、

何度でもしたくなってしまう。

あぁ、このままずっと離れたくないな。


「ねぇ、もう二度と私を離そうとしないでね」


「ああ、もちろんだ。もう俺から逃がそうなんてしないよ。

 たとえ、引き離されそうになったとしても」


強く抱きしめられて、もう離さないとささやかれる。

その言葉に安心して目を閉じた。


このままずっと一緒にいられることを願って。


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