第34話 母様との再会
なんだか騒がしい……
窓の外から誰かが叫んでいるのが聞こえる。
「……ニナ、起きている?」
「はい」
「部屋に入るよ」
続き部屋のほうからルシアン様が入ってくる。
まだ早朝なのか、うす暗い。
「こんな早朝から来たようだ。
念のため、ニナはこっちに来ていて」
「こっち?」
どこに?と思ったら、ルシアン様に抱きかかえられる。
そのまま隣の部屋、ルシアン様のベッドに連れて行かれる。
「ここで寝ていて。
きっと、ここに来るだろうから」
「……わかりました」
中にもぐりこむように言われ、布団の中でじっと待つ。
ルシアン様が言うとおり、荒々しくドアをノックされた。
「誰だ?」
「失礼しますよ。王宮警備隊長のドミニクと申します」
「こんな早朝に、しかも寝室まで押しかけて来るとはどういうことだ?」
「申しわけありませんが、陛下の命令です。
夜会の最中に大事なものがなくなったため、屋敷内を捜索させていただきます。
拒否権はありませんので、ご協力ください」
王命による捜索であれば、私兵たちも止められない。
だからといって、寝室まで押しかけてくるなんて非常識だ。
「夜会の最中に紛失?陛下の命令だと言うのなら、屋敷内を探すのはかまわない。
だが、さすがに婚約者の部屋は女性騎士に探させるようにしてくれ。
いくらなんでも、引き出しの中を男性に見せるわけにはいかない」
引き出し?と一瞬思ったけれど、警備隊長は人を探しているとは言わなかった。
大事なものと言われたら、普通は装飾品か何かだと思うはずだ。
それなら私の部屋の引き出しを探さないわけがない。
「……かしこまりました。そこは女性騎士にさせましょう。
それでは、屋敷内のどこを捜索してもかまいませんね?」
「ああ、問題ない」
「わかりました」
警備隊長が指示を出し、外で待機していた騎士たちが屋敷内になだれ込んでくる。
その勢いに驚いていると、ルシアン様に優しく髪を撫でられる。
「大丈夫、陛下が何を無くしたのかわからないが、
この屋敷ではないところで見つかるだろう。
もう少し落ち着いたら、着替えてもいいか確認しよう」
「……はい」
ルシアン様は騎士に聞かれてもいいように話している。
私は下手なことを言わないほうがいいので、
怯えているふりをして、布団の中で隠れていた。
女性騎士が私の部屋を捜索した後、
ようやく着替えてもいいと許可が出た。
女性騎士の立ち合いの下、室内用のドレスに着替えてルシアン様と朝食を取る。
その間も、屋敷内のあちこちで人が行きかう音がする。
「屋敷内を全部捜索するって、どのくらいかかるんでしょう?」
「屋敷は広いし、使用人棟と私兵棟もあるからなぁ。
一日じゃ終わらないかもしれないな」
「そうなんですね」
この会話をしている間も部屋の中には騎士がいる。
監視されているようだが、気にしないようにして食事を終えた。
さすがにルシアン様はこの中で仕事をする気はないようで、
私に勉強を教えてくれることになった。
いつ試験があるかわからないけれど、できるときにしておかないと。
次の日も、私とルシアン様は部屋から出られなかった。
必ず見つけるつもりで探していたのか、
警備隊長がイラつき始めたのがわかる。
「ジラール公爵令息、何か隠しているのではないですか!?」
「隠すと言われてもな。いったい何を紛失したんだ?
ネックレスか?指輪なのか?
それがわからなければ、こちらとしても探しようがない。
ただ、俺たちは夜会に行って、何も持ち帰っていないぞ?」
「……そうですか」
警備隊長は何を探しているかは言っていない。
紛失したものを探しているとだけ。
いなくなった母様を探しているとは言わない。
もしかしたら、私が関わっていないかもしれないから、
母様がいなくなったとは言わないんだろうか。
母様が自分で逃げた可能性もある。
私がそれを知れば、私をここにつなぎとめるものがなくなる。
母様が消えたままだとしても、
私がそれを知らなければ脅し続けられるとでも思っているんだろう。
散々探しても見つからないからか、
四日目の昼になって警備隊長と騎士たちは撤収して王宮に戻っていった。
見つからなかった場合、どうなるんだろう?
他の場所を探しに行くんだろうか。
ルシアン様が何を無くしたのかと王宮に問い合わせる手紙を送ったところ、
他の場所で見つかったからもういいとの返事がきた。
「やはり、母様のことは私に知らせないつもりなんですね」
「そうだろうな。調べた結果、ここにはいないし、
ジラール公爵家は関わっていないと判断したんだろう。
その場合は、ニナには知られたくないはずだ」
「本当に……」
どこまでも王家は、陛下は腐っている。
そう言いたかったけれど、途中で言うのをやめた。
ここで言っても仕方ない。
「あと数日はこのままで。
油断させて、また来ると困るから」
「はい」
それから五日間様子を見て、もう探しには来ないだろうと判断された。
母様は自分の力で逃げ出し国外へ出て行ったと思われたようだ。
これも、そう思われるようにパトが仕掛けていた。
十日ぶりに本宅への渡り廊下が姿を現す。
ルシアン様と手をつないで、本宅へと向かう。
本宅の前では、母様が待っていた。
その姿を見た瞬間、ルシアン様の手を離して駆けだす。
「母様!!」
「ニナ!……ああ、ニナなのね。こんなに大きくなって……」
「母様……ごめんなさい。私のせいで…母様が……」
久しぶりの母様の腕の中だけど、何か違う。
そうか。私が大きくなったからだと気がついて、また悲しくなった。
もう、十二年も母様に会えなかった。母様はずっと閉じ込められていた。
私が精霊の愛し子だったせいで。
「違うのよ。ニナのせいじゃないわ」
「でも……私が精霊の愛し子だったから」
「違うの。本当にニナのせいじゃないのよ。
顔を見せて……ああ、綺麗になったわね」
母様が昔みたいに柔らかく笑って、私の髪や頬を撫でる。
それがくすぐったくて、うれしくて涙が止まらない。
精霊たちが寄ってきて、私の髪と目の色を元に戻す。
それを見て、母様が懐かしそうにする。
「ふふ。ニナは本当に父様にそっくりになってきたわね」
「え?父様に?」
「ええ」
父様に似ているって、どういうことなのか聞こうと思ったら、
母様はルシアン様に向き直る。
「あなたがルシアン様?」
「そうだ。ニナの母上には本当に申し訳ないことをした。
この国の王家に代わり、謝罪させてほしい」
「謝罪はいらないわ。あなたが私を助け出してくれたのでしょう?
ニナも保護してくれていたようだし」
「それはそうだが、謝罪は別だ」
「いいのよ。私がもっと考えてから行動すればよかったのだから。
危険なのはわかっていたの、違う意味でだけど」
「違う意味?」
「ここに来るためにこの国に来たの。ジラール公爵家に」
母様の言葉に、ルシアン様だけでなく私も驚く。
ここに来るために旅をしていた?
「ジラール公爵家には何の用があって?」
「ノエルに会いに来たの。どこにいるの?」
「ノエル?叔父上か?」
「私は、いいえ、私たちはノエルに会いにここに来たの。
会わせてちょうだい。ニナはノエルの子よ」
「……は?」
「……え?……私の父様?」
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