第10話
⑩
こんな重い話をした後とは思えないくらい、平常に戻ってるヒロ。
ヒロは強いね…
「さて、帰るか。本当、遅くなっちゃったね、ごめんね。」
車を降りて歩き出すヒロに、
「ううん、私こそごめん、なかなか言わないからこんな…」
「ふふっ、マイってすぐ謝るのな。会話の多くにごめんが入ってる」
「えっ、ごめ…あ、ははは、本当だ」
「今日寒かったから、あったかくして、風邪ひかないでね」
ヒロはサクサク話題が変わっていくけど、自分の話したいことだけズイズイ話すのとは違うと気づいた。
相手の窮地を読んで話題を変えたり、相手を気遣って話を振ってる。
「なぁマイ、せっかく交換したんだから、たまにはLINEしてよ?」
ほら、これもきっと。
試してみたくて、心にもない事を言ってみる。
「用がないと、しないかな」
「用あるでしょ?きっと帰ってからも、俺に話しちゃって良かったのか?とか、ヨッシーはどうなるの?って悩むでしょ?そういうの、ちゃんと俺にグチるんだよ?」
ほらね。
ヒロってこういう人なんだ。
私が家の中まで入るのを見届けて、ヒロは今来た道を戻って行った。
家に帰ってから、すでに日付が変わってることに気づいて驚く。
え⁈バイト、7時までだったよね⁈
何時間、喋ってたの⁈
…楽しかったな。
…居心地よかったな。
悩みが軽くなったからなのか。
それとも、ヒロだから…?
頭ナデナデされた時、ドキっとしてしまった自分を思い出して、ちょっと怖くなる。
違うよね?違うよ、ダメだよ…
先輩に触られるのは嫌なのに、ヒロのナデナデはドキっとするって…
そんなこと…
私は先輩と付き合ってるんだから。
先輩と同じ大学へ行くんでしょ?
これからも先輩と続けていくんでしょ?
そう思ったら、なぜかちょっとだけ胸が痛んだ。
じゃあ、彼氏じゃない人とは…?
離れたり、切れてしまったりするのかな…
明日、また先輩が帰ってくる。
1日だった前回と違って、今週土日とも一緒に過ごす約束だ…
会えると思うんじゃなく、会わなきゃ…と思ってる自分がいる。
こんな状態で会っても…
彼女の顔できるの?
いつものように、手をつないでキスするの?
…無理だよ…
…できない…
嫌だと、触られたくないと思った。
嫌悪感を隠して会っても、きっと隠しきれないよね…
私の体が、心が、先輩に拒絶反応してしまっているのだから…
…答えはもう、一つしかないかもしれない…
なんとなく始めてしまった先輩とのお付き合いは。
流されるまま、ここまで続いてしまって。
特に別れる理由もなく、過ごしてしまったけれど。
「彼女いれば、他はどうでもいい」と言ったヨッシーの言葉を思い出す。
好きって、恋人って…
そういうものだよね。
なんとなくとか。
ズルズルとか。
そんなの違うよね。
ヒロと出会ってわかった気がする。
ヒロに感じたみたいな信頼感を、本当なら彼氏に感じるべきなんだ。
あっという間に時間が過ぎるっていう感覚。
いくらでも話していたい気持ち。
思い出すだけで嬉しくなるのだって、本当なら彼氏に対して感じるものだよね?
私は先輩に、そういう気持ち…持てていたのかな。
不安や悩みを相談したこと、あった?
気づけば考えちゃってるほど、いつも先輩が心にいた?
先輩のいなくなった学校も、思ったより寂しくならなかったよね。
私から会い行くことも、一度もなかった。
会いたいと思うどころか…嫌悪感さえある今…
もう、このまま続けていくことはできそうもない。
…明日、先輩になんて言おう…
爽やかな人だから、
そうか、わかった。なんて、あっさり了解しそうな気もする。
いや…最初のように、粘りたいと言うのかな…
考え出したら、ろくに眠れないまま、夜が明けていった。
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