第9話



「じゃあさ。マイの話じゃなかったら…ヨッシーと彼女に何かあるってこと?」




「…うん…」




「それ、二人の問題じゃなくて、マイが絡んでるの?」




「…直接は絡んでない…けど…私が言ったら、壊しちゃうかも知れないって…だったら誰にも言わないほうが、とか…」




ヒロはちょっと考えてて。

それから、しっかり私を見て言った。




「わかった。それ、俺が引き取るわ。話の内容まだよくわかんないから、全部吐き出してみ?マイが抱えてるの、俺がもらう」




まさか、こんな言葉がくるとは想像もしていなかったから。




ヒロに?

この重い塊を渡す?




ビックリしてる私に、




(いいんだよ)って言わんばかりに頷いて笑顔を見せるヒロ。




鎖で縛られた心が、どんどんほどけていくみたい。




そうなんだ?言ってもいいんだ?




いいんだよね?ヒロになら…




「…他の人に…他の人に触られるって…イヤ…じゃない…?」




言いながら、彼氏の顔がよぎる。




…やだ…




他の人を触った体なんて…やだよ…




ヨッシーのことを話しながら、自分とも重ねてしまう。




心の片隅に彼氏への嫌悪感があることを自覚する。




「まぁ、イヤだよね、普通」




たぶんまだ、よくわからないながらも、ヒロは同調してくれる。




「…ねぇ…駅の北口って…行く?」




「北口?ほぼ行かないなぁ。俺、車通学だし」




「あ、そっか。だからウチまでの道、すぐわかったんだね。」




「ナビ通りだしね。まぁ、もう1本あっちの道通って学校行ってるから、なんとなく知ってたのもあるけど。」




「そっか…。北口ってね…変なお店がいっぱいあるんだよ…」




「あー、呼び込みのお兄さんとかいるやつね」




「知ってるの?」




「行ったことはあるよ。ヤベェここ、来るようなとこじゃないって、すぐ通り過ぎたけど。」




そのヤベェとこにいるんだよ?あの人は。




「お店は…知ってる?」




「風俗だろ?…あ、そこに行ったわけじゃないからね」




「ふふっ」




「マイはなんで知ってるの?女の子なんて、近づくのも怖いんじゃない?」




母と兄との、あの日を思い出す。




あれからずっと悩んでいたことも。




ヨッシーと会うたび、苦しかったことも。




ゆっくりと、でも、本当のことを、ヒロに話した。




「…はぁぁぁ…」



自分の髪の毛をグチャグチャにかき混ぜながら、ヒロが大きなため息をつく。




「おかしいと思ってたんだよな、あの子…」




「えっ…ヒロも…?」




コンビニで会った時の、眩しい彼女が脳裏に焼き付いてる。

派手な格好じゃないのに、なぜか目を引く。

体の隅々まで磨きあげられたような、キラキラした人だった。




「綺麗な子だけど…なんか違和感あって」




「…私も…初めて会った時、3歳の差って大きいんだなって、自分がすっごく幼く思えたんだけど…でも私…果たして3年後、あんなキラキラしてるかなぁって…」




「だよな。…ヤバイなぁ…ヨッシー、知らないと思う。知ってたらそんなの、許せる奴じゃないから、さすがに。」





「…見なかった事にしたほうがいいかな、とも…」





「いや、そういうわけにはいかないでしょ。事実なら、ヨッシーが騙されてることになる。」





「…うん…」





「見逃すわけにはいかねぇな…」





だよね…




このままには、できないよね…




ヨッシーが、かわいそう過ぎる。




ヒロはしばらく黙って考えていたけど、その後しっかり私を見て言った。




「話、わかったから。もう悩まないでね。」




「えっ、でも…」




「大丈夫。俺がもらうって言ったでしょ?それより、マイ、つらかったでしょ。言っていいか、まずいか、ずっと一人で抱えてたんだ?」




うなずいた私にヒロは、




「えらかったね。でも、もう任せとけ、あいつのことは。」って。




労うように、頭をナデナデしてくれた。




安心させてくれる言葉と。

優しい笑顔と。

それから…さりげなく触れられた頭に…




呼吸を整えようとしてる自分がいたんだ…

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