第8話


「…どう言えばいいのかわかんなくて…話しちゃっていいのかも…まだ迷ってて…」





困惑してる胸の内を、素直にヒロに伝えた。





「そっか」





ヒロはそれだけ言うと、あとは何も言わなかった。




公園に止めた車の中で、ヒロと二人、静かな時間が流れていく。





不思議と今はもう、

『何か言わなきゃ』って焦りがわいてこない。





支離滅裂でも。

言葉が変でも。

思いつくまま、声にしてみよう…




フロントガラスから、星空を見上げてるヒロの横顔に向かって、私はポツリポツリと言葉をつなぎ出した。




「…あのね、私…ヨッシーのこと大好きで…彼女さんにも会ったことあるけど…でもやっぱり…ヨッシーが彼女さん大好きなのもわかってるけど…でも…でも…やっぱりヨッシーが大切だから…」




ヨッシーの笑顔を思いながら。

あの看板を思い出しながら。





痛む胸を押さえて、ゴチャゴチャながら、やっとで言葉をつなぐ。





ヨッシーと彼女さんの間に、大変なことがあること、どの時点でヒロは察するだろう。

どんな言葉で、状況を把握してくれるだろう…





真剣に聞いてるからなのか、ヒロは無言で、ずっと固い表情のまま。




「…ずーっと迷ってて…言っちゃっていいのか…それとも…私の中だけで…しまっとくべきか…とか…」




「…言わないほうが…いいんじゃない?」




前を向いたまま、ヒロの強張った声。




…言わないほうがって…?




今、この先を言うなってこと?




それとも、ヨッシーには知らせないままのほうがいいってこと?




「…でも…ヨッシーに会うと、罪悪感っていうか…見てるのもつらくて…」





「そうだろうけど…でもさ…いい子って言われてるってことは、つまり…」




ヒロが苦い顔で、言葉に詰まってる。




ん?

いい子って…なんだ?




意を決したようにヒロは私を見ると、





「つまり…そういう風にしか見えないってことなんじゃない?あいつ、彼女しか見えてないし」





ヒロの目が泳いでる。




…動揺してる…??




そして、ヒロの言ってる意味がイマイチわからない…




「…ごめん、ヒロ…えーっと…なんだろ…?」




首をかしげた私にヒロは




「ヨッシーに、告うか告わないか迷ってるんでしょ?なら、言わないほうが…




「っっっ⁈」




声にならない音の後、私は大爆笑。




ええっっ⁈私がヨッシーに告白⁈




「アハハハッ、ないないーふふふっ」




「えっ⁈は?えぇっ?」




ヒロの頭に、はてなマークがいっぱい出てる。




「違うよー。ふふっ、そういう好きじゃない。仲間?お兄ちゃん?みたいな大好き」




「…マジかっ…なんだ、そっか…はぁぁぁ〜」




思いっきり脱力してるヒロを見て、どれだけ私の話に真剣だったのかわかった。




「紛らわしい言い方だよね、ごめんね…なかなか…うまく話せなくて…」




「ううん、マイのペースでって、俺が言ったもんな。ハハ、勝手に勘違いしたわ」




苦笑いしながら、やっと目を合わせてくれたヒロ。




「ヒロの想像力がすごいよ。そうなる?みたいな。」




「いや、なるでしょ。真剣な顔で、ヨッシーの相談したいなんてさ。あいつカッコいいし、いい奴だし、そりゃ、好きになるよなぁ、って」





「…そうかなぁ…わた…ううん…」




危うく、

私はヒロのほうが好きだけどな、って言いそうになってた。




やばい。





もちろん、お兄ちゃん的な好きだけど、でも…紛らわしいことは言わない方がいい。

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