第6話



迷いながら。

結論も出せないまま。




それでも普通の顔して、今日もバイトをしている。




今日、店長と私の二人シフト。




結局、

「奥にいるから~」と、さっきから一人でレジに立たされてるんだけど。




高校生のバイト1人にするの~?と思うけど、まぁ、暇なコンビニだしね。

モニター見てて、すぐ来てくれるし。




こんな、どんよりとした寒い日…客足も遠のいてるんだろうな。




帰るまで雨ふらないで欲しいなぁ…なんて、ボーっと眺めていたガラスドアの向こうに、見覚えのある顔。




(…あれっ…?ヒロさんだ)




この前ここで話した時の楽しさが蘇って、思わず顔がほころぶ。




ヒロさんもニコッと笑顔を返してくれて、そのまま雑誌コーナーへ。




ヨッシーの友達の、ヒロさん。




頼れるいいヤツなんだ〜って、ヨッシーが私に紹介してくれて。

時間ギリギリまで、二人で喋ったよね。

話し足りないくらいで、また話そう、って言ってくれたよね?




それなら…




話…したい…




ヨッシーのこと…何か少しでも…ヒントでもいいから…何か…





雑誌とドリンクを手に、レジへやってきたヒロさんは。




「この前、慌てて出てっちゃってごめんね」




って、声をかけてくれた。




この前…また話そう、って言ってくれた続きのようで、なんだかほっとする。




あの時、この場にいたヒロさん。




彼女さんのことも知ってるヒロさん。




ヨッシーと仲良しのヒロさん。




この人になら…今なら…言える気がする…




レジを打ちながら、頭をフル回転で言葉を探す。




なんて言い出そう…

どう、話し出せばいい…?




…いや…

…本当に言える…?

…そもそも…言っていいの…?




早くしないと、レジが済んでヒロさんが帰っちゃう…




そう思ったら、雑誌を渡す手が離せなくて、ちょっと引っ張り合いみたいになる。




え?って私の顔を見てから、ふふっと笑ってくれたヒロさんに…




やっと出た私の声は、わけわかんない言葉。




「…っあ〜…っと…」




ヒロさんは、「ん?」って私の目をのぞきこむけど。




…どうしよう…なんて言えばいい…?




頭が真っ白。




うぅ〜っ…どうしよう…どうしようっ…




言葉に詰まってるくせに雑誌を離さない私に、何かあると察してくれたのだろう。




ヒロさんのほうから、他愛ない話を始めてくれた。




「前回も木曜だったけど、いつも木曜にバイトしてるの?」




「…あ、はい…」




「ここ、あんま混まないからいいね。って、アハハ、失礼か。」




「…あ、はは…」




私から話しかけといて、




何だ、この返事⁈




って自分でも思うけど。




私の頭の中は、




(言うの?)

(言わないの?)




を繰り返していて、会話どころじゃなかったんだ。




レジで向かい合ったまま、呼び止めた私の方が何も言わないから、ヒロさんは気をつかってくれたんだと思う。次々と話題を振って、ずっと立ち話をしてくれた。




たぶん、ヒロさんって凄く優しい人だ。

「何か用?」って「ないなら帰るよ」って言えば終わるのに、嫌な顔とか全然しなくて。




「今日は別にヨッシーに用があってきたわけじゃないんだよ。学校帰りにちょっと寄ってみただけで」




「…あぁ、はい…」




「ヨッシーと仲いいよね〜。アイツよく、マイがマイが、って言ってる。」




「…え…」




「ふふ。会ったことなかったけど、俺らの中では結構、マイちゃん有名だったりして。」




いたずらっぽい笑顔になぜか、大丈夫だよ、って意味が含まれてるように感じた。

信じて大丈夫だよ、味方だよって…




「あいつチャラいからさ、

可愛い!は挨拶代わりみたいに言うけど。

本っ当いい子なんて…真面目に女の子褒めるなんて珍しいから。」




「ふふっ…」




ヒロさんの作り出す優しい空気と、明るい話し方に、私はやっと笑顔になる。




「ノロケ話も、ずーっと聞いてあげるんでしょ?えらいよねぇ。

俺ら、誰も聞かないから。

うるせぇじゃん。可愛い可愛いって、わかったっつーの。」




(ヨッシー…)




ヨッシーは、私を大事にしてくれる。




バイトの飲み会とかで、遅くなったら送ってくれたり。




重い荷物を運んでると、かせ!って奪い取って全部やってくれるし。




お客さんに絡まれた時も、すぐ間に入って守ってくれたよね。




お店の駐車場を掃き掃除してたら、車止めにつまずいて転んだ私を見て。



膝から血が出てるのに気づいた瞬間、近くの薬局まで走って行ったヨッシー。




「信じらんねぇくらいドンくさっ」って言いながら、しっかり手当てしてくれた。




口は悪いけど、ひどいことも言うけど、でも…




そんなの愛情の裏返しだし。




本当は、思いやりがあって親切でめちゃめちゃ優しい人。




大切にしてくれてるの、ちゃんと伝わってるから。




私も同じように、ヨッシーが大好きだし。




そんなヨッシーが、騙されてるかも知れないのに…




ダメだよね。

見なかった事になんか…できるわけない。




「あ、あのっ…!」




ヨッシーを思いながら、声を振り絞った。





「うん」




私から言い出すのを待っていたように、優しく頷いてくれたヒロさんに、ウルっとしてしまったのは…




私の胸がいっぱいだからだ。

ヨッシーのことが大好きなのに、助けたいのに、どうしたら救えるのかわからなくて。

時間だけがどんどん経って、その間もヨッシーは騙されてるのかと焦って。

吐き出したいけど、口外していいのかもわからなかったし。




今日、たまたまヒロさんと会えて。

助け舟が来たような、安堵からのウルウル。




「大丈夫?」

心配そうに見つめてくれるヒロさんになら。




大丈夫…きっと言える。




「…あの…ヨッシーの…相談を…」




少し、ヒロさんの顔が強張った気がするけど…




「バイト何時まで?待ってようか?」




時間、作ってくれるんだ…




時計を確認して、




「あと30分です」




答えた私に、




「わかった。じゃ、車で待ってる。終わったら出て来てくれる?」




雑誌とペットボトルを手に、駐車場へと出て行くヒロさん。




言えた自分にホッとしたの半分、本当に話しちゃっていいのかいまだに迷う気持ちが半分…




ヨッシーの今ある幸せを、壊すことになるかも知れないのが、1番怖い。




…私が…




私が…あんな幸せそうなヨッシー…壊すことになっちゃうのかな…




揺らぐ心のまま駐車場へ向かう。




「おつかれ!」




明るい声に顔を上げると、ヒロさんが運転席から降りてきたところ。




私はペコリと頭を下げた。




「すみません…待っててもらっちゃって…」




「ううん。あ、車、ここに停めさせてもらっていいかな?」




そう言ってヒロさんは、車にロックをかけて歩き出す。




(…えっ?どこ行くの…?)




止めた車の中で話すものだと思い込んでいた私は、予想外の行動にビックリしたけど、黙ってついて行った。




「さっき、ちょっと見てきたんだけど、この先にベンチがあったから、そこで話そう」




外…なんだ…




今日…こんな寒いのに?




制服のブレザーに、スカートの私。




コンビニが温かかったから、外気との温度差に、体がついていけない。




スカートがめくれそうなくらい強い風に吹き付けられて、歩きながらもガクガク震えてる。




やばい…寒い寒い寒い…




それでもイヤとは言えなくて、ベンチに腰を下ろしてみる。




制服から出てる太ももが、冷えたベンチに当たって全身に鳥肌が立った。




スカート、短くしてるのが悪いんだけども。




ゾクゾク〜っと、寒さが全身を駆けめぐる。




ムリムリ…寒すぎ…




ヒロさんは心配そうに




「…寒い、よね?」




せっかく場所を探してくれたことに申し訳なくて、我慢しようと思ってたけど。




「…ごめんなさ…さむ…いです…」




震える声でやっと言う。




「ごめんごめん!戻ろう」




ヒロさんこそ、シャツ一枚で寒いはずなのに。




どうしてこんな所で…




コンビニまで戻りながら、ヒロさんは申し訳なさそうに言う。




「ごめんね。俺の車ってわけにはいかないし、外ってココくらいしか思いつかなくて…」




車…なんでダメなんだろう…




彼女さん意外、乗せない主義とか?




この辺りは全然お店なくて、うちのコンビニと、薬局くらい。




車ないと、どこも遠いなぁ。




車で話せないんじゃ、話す場所がない。




どこかのお店に移動することさえ、できないんだし。




やっぱり話すのはやめておこうか…




「あの…待っててもらったのに…」




やっぱり帰ります、と、断ろうと思った。




ヒロさんは。




「いや、こっちこそごめん。寒いに決まってるよね、こんな日に外なんて。本当にごめん。」




とりあえず、一回お店入ろう、って促されて、温かいコンビニの中へ戻る。




お店の隅に2人で立ったまま、突然ヒロさんに免許証を見せられて。




びっくりしてる私に、




「俺はヨッシーと同じ大学で、高校は西高ね。そこの学習塾でバイトしてて、家は…」




ヒロさんが個人情報をペラペラ言い出すから、




「え…まって…」




慌てて止める。




「なんで急に…」びっくりしてる私を真剣な顔で見て、




「怖いでしょ?どこの誰だかわかんない奴の車に乗るの。」




「…え?」

どういうこと?




「深刻そうに見えたし…マイちゃんの話、聞いてあげたいと思うけど、でも、いきなり知らないヤツの車乗るの嫌だろうな、って。」




…うわっっ…

びっくりするくらい誠実だ。




「…それでベンチで…?」




「そりゃそうだよ。車でお店に行ったほうがいいに決まってるけど、マイが嫌かなって」




いきなりの呼び捨てに、え?って顔になった私を見て、ヒロさんも気がついたみたいで。




「あ、ごめん、呼び捨てだった。ハハハ。いつもヨッシーと言ってるから、普通に出ちゃった」




「あー、全然…マイでいいです」




「はは、よかった。普段、ヨッシーと、マイが…って話してんのに、本人の前ではマイちゃんって呼ぶの、逆に違和感あって。ボロっと呼び捨てしちゃいそうで。って、今しちゃったんだけどね」




そう言ってヒロさんはカラカラ笑う。




「俺もヒロでいいからね。敬語もいらないし。敬語だと緊張増すわ」




「…えっ?緊張…してるんですか?」




「してるよ、めっちゃ」




「…え〜?何緊張?」




「マイ緊張だよ!いきなりこんなの、俺、どうしたらいいか、慣れてないもん」




「ふふふっ」




かわい過ぎだよ、この人。




大学生なのに。

5つも下の高校生相手に緊張するんだ。




こんな年下の相手なんか、余裕かと思ってた。




「あ、バカにしてんだろ、イモ男って」




「ふはははっっ」




可笑しくて吹き出した私を見て、ヒロも微笑む。




「マイ、元気出たね」




「あ、本当だ。ふふふ」




「じゃさ。帰りたかったら送ってく。もし、話がしたかったら、メシでもいく?ゆっくり聞くよ?マイのいい方でいいよ。」




(バイバイしたくない)




って思った。




楽しくて、居心地よくて、元気出てきて…このままヒロともっと話していたいって…思ってしまったんだ…




「…ごはんがいいな…」




口をついて出た言葉に、自分でもドキッとしたけど。




ヒロはあっさりと、

「オッケー。じゃ行こう。あ、もちろん帰り、ちゃんと家まで送るからね。」




慣れた手つきで、車を発進させた。




車の中でも話は尽きなくて。




ご飯を食べながらも、楽しくいろんな話をしていたんだけど。




ヨッシーの話題が出て、現実に引き戻される。




まだ私…肝心なことが話せてない…

そのために来たんでしょ?

ヒロに、待っててもらったんでしょ?




頭ではわかってるけど、ヨッシーを傷つけてしまうのが怖くて、ずっと言い出せないまま。




それでもヒロは、「話ってなに?」とか、一切聞いてこなくて。




いきなり、




「なぁマイ。LINE教えてよ。彼氏にまずかったら無理にとは言わないけど。大丈夫なら」




「え、LINE?…あ、うん大丈夫…」




急な展開でビックリしたけど、無事にLINE交換したヒロが、




「よし、じゃあ帰るか」ってスタスタとレジへ向かうから、完全に理解不能。




えっ⁈えっ⁈




…なに?なんで…




私がなかなか言わないから、さすがに怒った?呆れた?置いて行かれた??




あたふたと荷物をまとめ、レジへ向かったけど、もうお会計まで済んでいて。




「どうぞ」って、ヒロが扉を押さえて待っててくれてるところだった。




そんなヒロを見て、




…本当に帰るんだね…

私、まだ何も話せてないのに…




あまりにグズグズしてる私に、嫌気がさしたんだろう、きっと。




こんな、サッサカサッサカ動く人だもん。




遅すぎ!って…呆れて見放されたんだな、私。




一緒にいて楽しかったし。

凄く優しいし。

いい人だと思うけど。




動きに無駄がなくて、素早いヒロ。




私とは、全然ペースが合わない。




車に向かって、スタスタ先に行ってしまうヒロを見ながら。




「…ふぅぅ〜…はやい…」




聞こえないよう、ため息まじりの小さな声を吐く。




少し一緒にいただけでわかる、あまりの違い。




頭の回転も速いし、先を予見して、効率よく動くから。




ほら、今だって…




まだ私が車に乗ってもいないのに、さっさとエンジンかけてナビのセットを始めてる。




助手席に乗り込んで来た私を待って、




「家、どの辺?」




って聞くけど、もうさ、結構近くまでセットされてんじゃん…




「インターの近くって言ってたから、ここまでセットしたんだけど…合ってる?」




…完璧です。

そこからならもう、歩けます。




さっき、ご飯に向かう車の中で、

「お兄ちゃんが帰って来る時、お互いのインターが近いから意外にすぐだ」って話をした。





「よく覚えてたね、ちょっと言っただけなのに…」




「ハハッ。聞いたばっかじゃん。さすがにそんなすぐ忘れない」




…私なら忘れてるよ?

たくさん話した中の、ほんの小さな話題じゃん。

私のお兄ちゃんの話なんて、何の興味もないんだし。 




「あー、ごめん。こんな遅くなっちゃったね。家、大丈夫?」




ナビ通りに車を走らせながら、ヒロがチラッと私を向く。




「あ、大丈夫…1人なんで…」




「えっ⁈1人って?」




「母は夜勤で…あ、うち、母子家庭だから…」




「そしたら、完全に1人ってこと?一晩中?」




「はい。」




「そういうの、言わないほうがいい。」




真剣な表情で、強い口調のヒロにビクっとする。




えっ…?

怒ってる?

私、なにか悪いこと言った?




「女の子なんだし、1人なのわかったら、よくないよ」




「…あぁ…そっか…」




確かに。

最初の頃は不安でビクビクしてたのに。

慣れて、気にしなくなってた。




「気をつけなよ?困ったことがあったら、いつでも言ってよ?」




さっき

怒ってる?くらいのヒロだったのに、今度は優しい顔で諭すように言う。





そして

「そこの、新しいお店もう行った?」


って…


車の窓から見える、オープンしたてのレストランを指差して全然違うことを言い出すから。




「…え?あ、まだ…」




頭がついていかない…




そうやって、次々と話題が変わっていく。




テンポが、違い過ぎる。

時間の流れが、ズレ過ぎてる。




こんなポンポン言葉が出てくる人に…

こんな、テキパキしたヒロに…




今だに、言うか言わないか迷ってるヨッシーの話なんて…話し出せるはずない。




私の、しどろもどろなんて…待てるわけないよね。




言い出さなくて、やっぱりよかった。




見慣れた景色になってきて、家が近づいてきたことがわかる。




…この辺からなら、自分で歩いて帰れるから。




「あ、いま青の信号あたりで…」




指差した青信号を見てヒロは、




「信号、どっち?」




「えと…左…」




「曲がったら?」




「あ、もう真っ直ぐ…正面の団地なんで…」




言いながら車はどんどん進んで、団地の駐車場まで。




大きな通りから逸れるから、家まで送ってもらうの悪いな、って、信号から歩こうと思ってたのに。




え、あの…って、アタフタしてる間に、敷地内にある公園脇に車をとめて、ヒロはエンジンを切った。




ヒロのことだから、私を下ろしてすぐ、私が瞬きしてる間に見えなくなってた…くらいの勢いで帰ると思ってたのに。




…??

帰らないの??




不思議そうに、ヒロを見ると、




「送るよ、玄関の前まで」




言いながら、もう車おりてるし!




「えっ⁈え…いい、だいじょぶ…っ」




慌てて駆け寄るけど、ヒロはスタスタ歩きながら、




「LINEあるからさ。いつでも、俺は大丈夫だから。マイのタイミングでいいよ。」




ね?と、振り向いて優しく笑った。




なんのことかわからない私を置いて、ヒロは再びスタスタ歩き出す。




私は、後ろをついて行きながら、ヒロの言葉の意味を考えて。




…もしかして…




…ヨッシーの話…?




…わかってたの…?

私がなかなか言い出せないって…




ヒロから何も言わないのは…




呆れたんじゃなくて、私のタイミングを待っててくれたから…?




急かさないで、私のペースに合わせてくれてたんだ…




見放されたんだと。

聞く気ないんだと思った自分を反省する。




そうだよ。

そんな人じゃないって、誠実ないい人だって、わかってたはずなのに。




ヨッシーから、信頼できるいい奴って聞いてたじゃない。




私の話を聞くために、30分待っててくれたんだよ?

いきなり車は警戒するだろうって、ベンチの下見に行ってくれてたんだよ?

慣れてなくて緊張してるって、5つも下の高校生に素直に言える人だよ?




話が言い出せない私を待って。

それでも言わない私に、LINEを聞いて。




いつでも聞くよって…




ヒロは。

いちいち細かい説明言わないから、わかりにくいけど。




テキパキし過ぎてて、誤解されやすいけど。




本当は…




相手を見て、相手に必要なことをフォローしてあげられる、すごく優しい人だ…




なんか…ジーンときちゃって、歩く足が止まってしまった私に。




「…ん?どうした?」




ヒロも止まって振り向く。




ほら、ね。




スタスタ行っちゃうようで、実はちゃんと私を気にしてくれてて。




私が止まるとちゃんと気づく。




気づいて、どうした?って振り向いてくれる。




たぶん…女の子に慣れてないだけなんだ。




女の子の歩くスピードに合わせるとか、横に並んで一緒に歩くとか…




そういう意識が、ヒロの中にないだけ。




冷たいんじゃない。

素早いだけの人じゃない。




経験がないだけ。

気づかないだけ。




言えば、ちゃんとわかってくれる人だと思う。




どうした?って聞くのは思いやりだもん。

大丈夫?って聞くのも、気持ちがなかったら言えないんだよ。

大丈夫じゃなかったら助けるつもりの言葉なんだから…




大丈夫?もどうした?も言ってくれたヒロ。




こういう人なら…




私がしどろもどろにしか話せなくても。




汲み取ろうと。

理解しようとしてくれる。




…ヒロになら…吐き出したいと思った。




一人で抱えるのがつらくなってきた、この胸にある重い塊を。




ヒロに…聞いて欲しい…




歩きを止めた私を、不思議そうに見つめるヒロに、お願いしてみる。




「…車…戻ってもいい?」




「車?忘れ物でもした?」




言いながらもササッと車に戻って鍵を開けてくれたヒロを見て、確信する。




自分は素早くて、ミスもしないのに。

相手のミスは、助けたり、先回りしたりして、補ってくれる人。




嫌な顔ひとつしないで。




私とペースが違うのは確かだけど。




それをマイナスと取らずに、受け入れてくれる人だ。




ヒロはきっと…

私が上手く話せなくても。

「こう言いたいのかな?こういう意味かな?」って…わかろうとしてくれるはずだ。




そんな確信があった。

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