第50話

長い沈黙の後、しゅんくんは私の前にしゃがみ込んで、そっと頬に手をあてた。







「つらかったね・・・。いっぱい泣いた顔してる。」







温かくて、大きな手・・・

いったい、どこまで優しい人なんだろう・・・。







「男の力になんて、どうやったってかなわないよね・・・。同じ男として、そいつを軽蔑するけど・・・アカリとは、関係ない。」







真っ直ぐな目で、しゅんくんはキッパリと言い切った。







「・・・関係なくなんか、ない。しゅんくん、ちゃんとわかっ・・・」







「わかってるよっっ!!!」


しゅんくんの強い声が、私の言葉を遮った。







「意味なんか、わかってるっ!!

・・・すっげぇ、嫌だよっ。

めちゃめちゃ嫌だけど・・・でも、アカリの意思じゃないだろっ!?」







私の両腕をしっかり掴んで、しゅんくんが力強く言った。







「・・・痛っ・・・」







内出血の部分を触られ、痛みで声が出てしまう。







(・・・まさか・・・)

って顔をして、しゅんくんが私の服の袖をまくり上げた。







「・・・こんな、なるまで・・・」







しゅんくんは顔を歪ませて、悲しそうに言った。







「別れ話する時・・・どうして俺に言ってくれなかった?」







「・・・」







「どうして一人で行ったんだよ?何で頼ってくれなかったんだよ・・・」







(しゅんくんに危害が及ぶのだけは、絶対に避けたかったからだよ。

たとえ、私がどうなったとしても・・・ただ、ただ、しゅんくんを守りたい一心だった)







「しゅんくんに会ったら、包丁でも出してきそうな人なんだよ・・・?」







「それでもっ・・・!それならアカリはこんな思い、しなくてすんだでしょ?たとえ俺がどんな思いしても・・・アカリの事は守りたかったよっ!」







苦しさを噛み殺しながら、言葉を絞り出したしゅんくんの、つらそうな顔を見て気がついた。







(自分より、相手を守りたい気持ちはお互い同じ。だから今、しゅんくんも私と同じように苦しんでる。

・・・それなら・・・

背を向けないで、本心をちゃんと話そう・・・)

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