第5話

そうだね。


どれだけジムで話をしてても・・・私達は・・・詳しいことはお互い何も知らない。






でも。


それでいいの。


このままのほうが、いい・・・







そんな私の思いを知らず、こうすけは、エレベーターに乗りながら言う。






「なぁ、ジムの後、時間ない?」






「えっ・・・?」






「休憩室でしか会えないから・・・ジムの後、ご飯でも」






ドキッとした。

心臓が、キュってなって。






でも・・・







うつむいたまま、首を横に振った。







「・・・そっか」







それだけ言って、こうすけも黙ってしまった。






都合が悪いとか、体調が・・・とか。

もっとうまい嘘でもついて断れればよかったけど・・・



次を期待させるわけにはいかないから。

何度誘われても、行くつもりはないのだから・・・







「ごめんね・・・」






誤るくらいしか、できなかった。







それでもこうすけは、






「じゃ・・・アドレスは?メールも・・・ダメかな?」







傷つけてしまいそうで、顔なんて上げられなかった。






うつむいたまま、




「・・・ごめんなさい・・・」




やっとでそれだけ言った。







「・・・ううん、ごめん」







こうすけの声が、沈んでいるのがわかる。








ダメな理由も言わない。

アドレスさえ、教えない。







こんな私の断り方はきっと・・・すごく嫌な否定の仕方なんだろうな。







でも・・・







これで、いいんだ。

これで、終わりにできるから・・・







そのまま二人、黙ってエレベーターを降りて、







「じゃぁ・・・」って、私は右の教室へ、こうすけは左へ。







自分の教室へ入ろうとした私に、






「待ってるから。終わったら、また休憩室でな!」







「えっ・・・?」


びっくりして振り返る私に構わず、こうすけは自分の教室へ入って行ってしまった。







私・・・断ったのに・・・?


まだ、休憩室で待ってると言うの・・・?






・・・どうして・・・?

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