第2話

ありがとう、と私の前に座りながら、こうすけは、



「ボクシングやってるように見えないよね」って言った。





「そう、ですか・・・?」





「うん、細いし。鍛えて、ムキムキになっちゃったりしないの?」





「あぁ・・・、ボクシングって言っても、ボクササイズっていう・・・」





「ふ~ん。じゃぁ、今度オレと対戦しようって言っても無理かな?」





「えっ、たいせん・・・!?」





ティーシャツからのぞく、こうすけのたくましい腕を見て、





私は首をプルプルと横に振った。





(ムリムリ~、死んじゃう!!)






慌てる私を見て、






「あはは、しないって~。冗談だよ。」






こうすけは楽しそうに笑った。






(うっ、からかわれてる・・・)って思いながらも、







「ふふっ、もう・・・」






おかしくて、私も笑顔になる。







「オレと、何度かここで会ってんだけど・・・気づいてなかった?」






「えっ、ほんと?」






「そっか~、知らなかったか・・・」






こうすけは残念そうにつぶやいた。






「ごめんなさい。私、いつもぼ~っとしてるから・・・」






「ううん。オレのほうこそ。勝手に顔見知りの気になってて、急に声かけちゃったね。ごめん、別に変なつもりじゃないんだけど・・・」






「あ、全然そんな・・・」






本当だよ。

変な人だなんて、全然思ってなかった。







「ねぇ、いつもこの時間に来てる?」







こうすけの問いに、私はうなずいた。







「オレは仕事の都合で、いつも同じ時間には来られないんだけど・・・また、話そう。」






私の目を見て、こうすけは、はっきりと言った。






そうだね、楽しかった・・・。

また偶然、会えたらいいね・・・






「私は毎週火曜日だから、来週は・・・」






日にちをカレンダーで確認しようと、キョロキョロした私の目に、時計の針が見えた。





時間を知って焦る。





「えっ!?もうこんな時間!?」





楽しくて、いつの間にかこんなに遅くなっていたんだ!






保育園の閉園時間が迫っていた。






こうすけの顔を見る余裕も、何か言う間もないまま、ジムを飛び出した。

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