ジム

第1話

ダイエットの為に始めたボクササイズ。




ヨガとかピラティスだったら、おしゃれな感じかも知れないけど。



私はもっと・・・我を忘れてガツガツやりたかったから。





不安な毎日も。

消したい過去や、胸の痛みも。

せめて、ここでは忘れていたくて。





一週間に一回でいい。

たとえ、一時間でいいから。





家に帰ったら、しっかり母の顔をするために。

大切な娘を守るために。




弱音は吐けない。




本当は、不安でいっぱいの毎日だったけど。

責任の重さに、苦しさを抱えていたけど。





それでも、誰も頼ることはできない・・・。







現実から逃げるわけにはいかないから。

過去を消すことはできないのだから・・・







せめて、ここでは・・・



トレーニングに集中して、頭を真っ白にしていたい。




心地よい疲労感を抱えながら、ジムのジャグジーに浸かって、ゆっくり、穏やかな時間を過ごす。




ビルの14階にあるこのジムは、休憩室からの景色がキレイで。



ジャグジーの後、休憩室へ移動して、キレイな景色を見ながらぼんやりと、自分の時間を過ごすことにしている。








ぼ~っと、ジムの休憩室で休んでいた私に、




「よく会いますよね。」



こうすけが、声をかけてきたのが始まりだった。








(・・・誰だっけ?)


キョトンとしてる私に、こうすけはちょっと慌てて言った。








「あ、よくここで見かけるんで・・・


女の人でも、ボクシングやるんだ、って、


つい・・・すみません。」








謝るこうすけに、






「ふふっ」


笑ってしまった私。







そうだよね。


男の人ばかりのボクシングジム。


その休憩室でくつろいでる女なんて、私だけ。


目立ってたんだろうね・・・。








笑った私を見て、



「ここ、いいですか?」



こうすけが言った。







(・・・他にも席たくさんあいてるのに?)



そう思いながらも、断るのは悪くて、





「あ、どうぞ・・・」




私は、テーブルの荷物を片付けた。

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