新しい場所で

第37話

実家に3泊する予定を切り上げて、次の日、俺はアパートへ戻った。







正確には、アパートへ戻ったんじゃなく・・・美咲の住む場所へ・・・







加奈から聞いた住所を頼りに、探し当てた美咲のアパートは・・・







古くて汚くて。


街灯もないような、暗い土手沿いにあった。







女の子が一人で暮らせるような環境じゃない・・・







それなのに。




夕方になっても夜になっても・・・







留守のままだった。







(こんな時間まで、どこ行ってるんだ・・・?)







真っ暗なアパートの前で、何時間待っていただろう。







街灯もない道を、向こうから歩いてくる・・・忘れもしない、あの影・・・







「・・・美咲っ!」







顔が見えなくたって、間違うはずない。







「・・・拓・・・?」







声だけで俺だとわかってくれたことに、美咲への気持ちが高ぶる。







「美咲・・・っ!」



駆け寄る俺が、顔の見える距離まで近づく前に・・・

美咲は背を向け、走り出した。







「おいっっ!美咲、待てよっ!」



追いかけて、腕をつかんだ。







「・・・やっ・・・」







「なんで!なんで逃げんだよっ!」







腕を振り払おうとしてる美咲を、俺は力づくでグッと抱きしめた。







「やだっ!放して!!」







「放さないっ!」







「いやっ・・・お願い、拓・・・」







「放さないっっ!俺、もうやだよっ!絶対放さない!」




美咲が壊れそうなくらい、腕に力を込めた。







俺の腕の中で、美咲は小さく震えていた。

初めて抱いた、あの時のように・・・







「なんで言わねぇんだよっ!こんな近くにいたんならっ・・・」







「・・・言えないよぉぉぉ・・・私、あんなことして・・・」







「・・・ばかやろうっっっ!!」







「・・・ごめん、拓・・・っっ・・・ごめんなさいっっ・・・」







泣きながら謝る美咲を、精一杯の愛しさで、きつくきつく抱きしめた。







「・・・もういいっ!もうっ・・・絶対、放さねぇからなっ!」

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