第36話

「・・・ねぇ、拓・・・。

美咲には、言わないでって止められてるんだけど・・・」







何か言いかけた加奈を、裕太がさえぎった。







「加奈!それは・・・!」







「いいよ、もう。

この二人、いつもこうなんだから。」







「でもそれはマズイって・・・」







「裕太だって知ってるでしょ?高校の時から、どっちからも言えなくて。

・・・今だってそう。

戻ればいいのに、どっちからも言わないんだからっ!」







「そうだけど・・・美咲には美咲の考えもあるんだし・・・」







(二人は美咲の何を知ってんだ?)







「・・・なんだよ?さっきから、二人でコチャコチャと・・・」







意味がわからず、二人の顔を交互に見てる俺に、加奈は・・・







「美咲、拓の近くにいるよ。」







「はっっ!?」







裕太の制止を振り切って、加奈が教えてくれた。







地元の就職を断り、カンカンに怒る両親に勘当同然で今・・・







俺の近くで暮らしている、と・・・。







近くと言っても、違う線の駅だから、俺は行った事もない場所。







俺にばったり会ってしまわないように、わざわざそんな場所を選んだ、と・・・







「そんな・・・」



美咲のけなげさが、俺の胸を締め付けていた。







「拓のそばに居たいけど、あんな事あって・・・堂々とは会えない、って。

迷いながら、それでも地元捨てて、拓のそばに行ったんだよっ!?」







裕太も付け足す。







「・・・美咲、すっげぇ苦しんでたよ?

拓を応援してやれなかった自分も、大学の男との事も・・・だから、お前の前に出て行かないんだよ。」







「そうだよ、拓。

私・・・裕太から、『拓、今すっごい遊んじゃってるらしい』って聞いて。

それって、美咲を忘れられないからでしょ?忘れられなくて、拓もまだ苦しんでるからじゃないの?」

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