第9話

俺は・・・







今日は・・・







最後くらい、素直に言うぞ。







「あぁ、そうだよ。美咲探してキョロキョロしてた。」







「えっ・・・?」







いつもと違う俺に、美咲はびっくりしてた。







「俺、もうすぐ引っ越しだから。いつもお前とケンカばっかだったけど・・・最後ぐらい、素直に話しときたかったから・・・」







静かに言った俺に、美咲はうつむいてしまった。







(あれ・・・?)







いつもなら、バカ!とかウザイ!とか、罵声が飛んでくるのに・・・







「・・・なによ、今さら・・・」







うつむいたまま、美咲が言う。







聞き取るのがやっとくらいの、小さい声。







「うん・・・ごめん・・・。ずっといじめてたのに、今さら、だよな」







「・・・」







いつもなら、ここらで一発飛んできそうなのに・・・今日の美咲はどうしちゃったんだ・・・?







「・・・なぁ、美咲・・・」







声を掛けた俺は、やっと顔を上げた美咲の顔を見て、ドキッとした。







唇を噛みしめて、俺をにらんでるけど・・・







その目は、泣き出すかと思うくらいに潤んでる。







(・・・うわっ、こいつ・・・こんな顔するんだ・・・)







どんな顔も・・・やっぱ、メチャクチャかわいいんだけど。







美咲が急に見せた『女の子』に、俺は動揺してしまう。







(やっべぇ・・・離れたくなくねぇ・・・)







動揺してる俺に、いつもどおりの口調に戻って美咲が言う。







「拓さぁ。美咲に、引っ越し先も報告しないで行くつもり?」







「はっ?」







「しょうがないから、遊び行ってあげる。加奈と美咲がいなかったら・・・どうせ女友達なんか、できないんだから。」







そう言って、美咲は自分のバックから、ペンを取り出した。







(遊び行くって・・・男の所だぞ!?)

(一人暮らしだぞっ!?)







(・・・まさか・・・みんなにも同じこと聞いてるのか・・・?)







俺は、すぐには住所を書けなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る