第5話 彼となら
「それって、つまり君……」
表情の変わらない
予想と違う返答であってくれと祈りながら。
「はい、私当主の娘です。一応ね」
「……なるほど」
彼には、それ以上を聞く必要がなかった。
「落ちこぼれなんていらない。だけど、体裁は気になる。でも、俺に喰われればその辺誤魔化せるってことか」
「そういうことです。その内捨てられるだろうとは思ってたので、そこまで何も感じなかったですけど」
淡々とした口調の
ある程度割り切っているのだろう。
「だから本当は、あの日喰われてもいいと思ってました。でも、あなたは私を喰おうとしないし。それに、嬉しかったんです。あんな風に言ってもらえたの、初めてだったので」
「俺もさ、あのまま死んでもよかったけど、君が置いていった食事が美味しそうで……」
しばしの沈黙の後、驚いたように彼が言う。
「なんだ、君笑えるんだ」
「えっ……?私、今笑えてました?」
「うん、そう、だけど」
「私、いつも表情筋死んでるって言われるのに……」
明確に感情のこもった
「……そういえば、名前教えてください。なんて呼べばいいかわからないので」
「なんで、今……?」
唐突な質問に、彼は戸惑う。
「私たちが、こうしていられるのがいつまでかわかりません。それに、話し相手がほしくて……」
——だから、同じような境遇の彼となら。
これが全て演技で、この後喰われてしまっても別に良い。
「シオン、俺の名前だよ」
「……なんというか、思ったよりも普通の名前ですね」
「聞いておいて何なの。ま、いいけど。それで、君の名前は?」
「
「ありがとう。お願い」
彼の頬に手をかざすと、淡い光が放たれる。
完治するまで数秒もかからなかった。
それから二人が打ち解けるまで、時間はかからなかった。
「ねえ、なんでわざわざ
互いに名前を教えた日から、
「当主と
「そっか」
他愛のない会話。
「シオンさんって、どんな魔法が得意ですか?」
「……剣とかつくるの、かな。
自信なさげに、
「……治癒、ですかね」
「あー、確かに
「そうですか?嬉しい、です」
だが、二人にとって一番幸せな時間。
地下室の檻の前には、
金に染めた長髪。
そう、彼女が
「なんで、なんでさっさと
その手には魔法で出した、手のひらほどの大きさの火球。
檻の中へ投げつけるが、シオンが避け、火球は消えた。
「まあまあ、もう少し待って。まだ丸々喰えるほどの体力も魔力も戻ってないの」
時折地下に来ては、早く
その度シオンはなんとか虚勢を張ってやり過ごしていた。
火傷は、食事を持ってきた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます