第4話 暗い瞳で、それでも語る

 数週間前のあの日まで、俺は落ちこぼれだった。


 俺は魔界の中でもかなり上位の家系の生まれ。


 だけど魔力が弱かったから、優秀な兄と比べられて、虐げられていた。


 だけど、いつか家族に認めてもらえたら。



 これは、そう思えなくなったあの日からの話。




 呆然と虚空を見つめる俺。

 慌てて両親を呼びにいく使用人。


 何が起こったのかわからなかった。


 こっそり魔術の練習をしていたら、魔術で出した剣を出せていた。


 今までは俺の魔力が足りないから、出せてもせいぜい短剣程度。


 だけど、できたってことは、俺の魔力が強くなった、のか?


 でも、そんな自覚は全くない。魔力量は、普段と変わらない、気がする。


 あの後魔力量の検査を受け、俺が比べられていた優秀な兄よりも強いことがわかり、俺は後継ぎになれと言われた。



 これだけ聞いたら、良いことのようだが、実際はそんなことはなかった。



 それからの日々は地獄のよう。


 基礎的な魔法はさすがに使えたが、それ以外は何も教えてもらえなかった俺は、知識も実力も足りなかった。


 魔法も中々うまくいかなくて、勉強もあまりできる方じゃない俺は、色々と教えられたけど半分も理解できているか不安だ。


 そんな俺が家督を継ぐのが許せなかったのか、兄からの嫌がらせが始まった。

 

 毎日続いて、ストレスのせいか俺の魔力は弱まってしまった。

 今じゃもう、前よりも全然弱い。


 そんな俺は再び失望されて、扱いは元に戻った。いや、元よりも酷くなった。




「それで耐えられなくなって逃げ出したけど、行くあてなんて無くて。魔力と体力も限界で倒れたのが、たまたまこの屋敷の側だった。それで見つかって、ここに閉じ込められた」


 あまり思い出したくないことだろう、彼の瞳は暗かった。


「自由になったところで帰る場所なんてない。だから、君を喰うことはしない。まあ、それは君にとって救いにはならないけど。ごめんね」


 深呼吸をして彼は、華菜かなに尋ねた。


「それで、君は?」

「……私、ですか?」


「そう。俺が話したくないこと話したんだ。君は聞くだけとか、不公平でしょ」


——確かに、これは答えるしかないか。


 答えると決めた華菜かなだが、表情も特に変化していなかったので、急かすように彼は問う。


「君は、どうして喰われろって言われたの?見たとこ、ただの使用人だけど」


 ふたりきりの地下室。

 だから、華菜かなはため息を隠さない。


「やっぱり、そう見えますか?」


 華菜かなは、髪を染めたことがない。髪色と瞳の色は、親譲り。


 彼もなんとなく気付いたようだ。


 当主の髪と瞳も、華菜かなと同じ茶色だったと。


「もしかして……君、」


「そうです。私、使です。」

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