第3話 どうして

 あれから数日。


 華菜かなが持っていった食事を彼は毎回完食し、少しずつだが、回復していった。



 今日も彼の食事を用意するため、厨へ向かった華菜かな


 中から聞こえたのは、使用人たちのこんな会話。


「ここ数日、舞希まき様の機嫌悪いわよね」

「やっぱりそう思う?私昨日、二回も怒鳴られたのよ」

華菜かなさん、大丈夫かしら?」


——まあ、舞希まきがキレるのも無理ないか。


 平穏な時間が訪れているのは、どうやら自分と彼だけ。

 華菜かなはそう思っていた。



 しかし、その頃舞希まきは、檻のある地下に来ていた。



「……どうして、」




 その日も華菜かなは食事を持って地下の檻の中に来ていた。


「食事、持ってきましたよ」

「そこに置いておいて」


 相変わらず冷たい彼の声音。


 すぐに地下を去ろうとした華菜かなだったが、彼の腕の火傷に気が付いた。


 舞希まきの得意魔法は、炎魔法。


 誰がやったのか察しがついたが、華菜かなは一応問う。


「……今日、金髪の偉そうな女性、ここに来ましたか?」

「……来たよ」 


——やっぱり、舞希まきか。


 華菜かなにはまだ、確かめたいことがあった。


「その火傷は、彼女に?」

「そうだよ」


「抵抗、しなかったんですか?それとも、できなかったんですか?」



 彼の声を素っ気ないと思っている華菜かなだが、彼女の声にも感情は込もっていない。



「……できなかった。体力は大分戻ったけど、魔力がまだ全然」


 それを聞いて、なら、と華菜かなは問う。



「どうして、私を喰わないんですか?」



 なぜ、悪魔である彼を檻の中に閉じ込めてまで生かしたのか。

 華菜かなは初めからわかっていた。



 そもそも人間、特に魔法使いと悪魔は、互いにあまり干渉しようとしない。


 だが、悪魔の中には魔法使いを喰べてさらに魔力を得ようとする者もいる。

 そういった悪魔は魔法使い、または同族である悪魔が始末し、逆も同じ。


 それが人間と悪魔の関係である。


 基本的に悪魔の方が魔力が強いので、今のこの状況は極めて稀だ。


「私を喰べれば、魔力の回復も少しは早くなる。なのに、あなたは私を喰わずに生かしている。それは何故?」


 問いかける華菜かなの表情は変わらない。



「私を喰えば、ここから出す。そう言われているのでしょう?」



 彼は何も答えない。いや、何と答えるか考えているようにも見えた。


「理由が無いのなら、早く私を喰ってください。もう、いいんです」


 生きることへの執着がないのは、何も彼だけではない。


 彼は、予想と全く違う言葉だったのか、俯いていた顔を上げた。どうしてそんなことを言うんだという顔で。


 それからややあって、彼が語ったのは、自身の過去。


「……俺は、悪魔の中でも上の方の家の生まれで、だけど、俺は魔力が弱くて落ちこぼれだった。でも、数週間くらい前のあの日、突然魔力が目覚めて、」


 この檻に捕らわれるまでの話だった。

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