第2話 きっと本当は

 あの後華菜かなは一応、厨で食事を用意し、今は地下へと向かっていた。

 

 地下へ繋がる扉の前。


 華菜かなはどこか諦めたようなため息を吐き、慌てて誰も見ていないだろうかと周囲を見回したが、誰もいない。


 食事を載せたお盆を持っていない方の手でなんとか、地下に繋がる扉を開けた。


 彼は、先程見たときと変わらず、隅の方に寝転がっていた。

 やはり相当弱っているようで、魔力もほとんど感じられない。


 お盆を一度床に置き、当主から預かっている檻の鍵をポケットから出し、鍵穴に挿し込んだ。


 当主が結界を張っているので、開けても彼は外に出ることはできないと聞いている。

 


 彼女に躊躇いは無い。少なくとも、そう見えた。



 そっと檻の扉を開ける。

 彼がぴくりと反応し、身を起こした。


 華菜かなはお盆を持って中に入ったが、何と声を掛ければいいのかわからず、一瞬立ち止まる。


「あの、食事を持ってきました」

「……いらない」


 ややあって返ってきたのは、かすれた小さな声。


「帰っていいよ。どうせそのうち死ぬから」


 その声は冷たかったが、すべてを諦めているようにも聞こえた。


「……死ぬの、怖くないんですか?」


 思わず華菜かなの口から疑問が漏れる。


 彼は華菜かなに背を向けて答えた。

「別に」


 ——きっと、本心は違うはず。


 華菜かなは彼の心を読めるわけではないので違うのかもしれないが、そう思った。




 あの後、何も言わない彼をどうすればいいのかわからず、食事を載せたお盆だけ置いて戻った華菜かな


——今、舞希まきに会ったらなんて言われるんだろ。


 なんてフラグのようなことを考えていたが、華菜かなは誰にも会わずに、自分の部屋にたどり着いた。


——けど、やることないし暇だな……。


 いつも雑用に追われ、趣味なども特に無い華菜かなは、時間を持て余していた。



『帰っていいよ。どうせそのうち死ぬから』



 脳裏によぎったのは、彼の声。


 感情がなかなか表に出ない華菜かなだが、薄情なわけではない。


——でもこれは、彼にとって救いにはならない。


 だからといって、放っておくなんて無理だと、華菜かなは地下へと向かった。


 しかし、そこで見たのは予想とは違う光景。


 空になった食器。


 昼に華菜が置いていった食事は、完食されていた。


「……これ、美味しかった」


 そう言った彼の声は、他に雑音があったら聞こえなかったかもしれない。


——いらないって、言ってたのに。


 なんだか損したとため息を吐く華菜かな


「……何?」

「別に何も」


 やる事はひとつ増えたが、安堵した華菜かなは、食器を載せたお盆を持って地下を後にした。


——美味しかった、なんて言われたの、初めてかも。


 感情が動いても、表情の変わらない華菜かな


 しかし、檻に背を向ける直前、自然と微笑んでいたことに、本人は気付いていないようだった。

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