7 黙秘する

カエデ『よ、元気してる?』


 ピロリとスマホの通知が鳴った。自室の中だから誰にも見られていないわけだが、冥には思考が届かないようにはしないとな。

 連絡を取っていることとこの子を狙っていることは以前すでに思考の共有で伝えてあるが、それでもいい気分はしないだろうから。

 相手は一ノ宮さんだ。名前が楓だからアカウント名もそのままカエデ。

 ちょっとスマホを放置していたらうるさいくらいに連絡をしてくる少し困った子。

  

 そこがまた可愛らしくもあって……まあ、悪い気はしない。 


『元気してる?とな。何度も伝えただろう。俺は元気でやっている』


 送信してからまた気づく。俺はやはり無愛想だな、と。

 コミュ障だから仕方ないと言い訳はできない。できないものはできないわけではあるが、それにしたって酷い。

 不快に思ったと感じ取れたら素直に謝ろう。


カエデ『あ、いや…ごめんね。冒険者学校入れなかったことへの当てつけとかじゃ…』


 途端にしおらしくなる。強気なのは威勢の良さと腕っぷしからくる印象によるものでしか無いと気付いた。この子の本性はとても弱々しい女の子なのだろう。


『いや、すまない。こちらもそういうつもりはなかった。とても楽しくやっているよ。充実している』


カエデ『そう、ならよかった…(胸をなでおろす女の子のスタンプ)』


『仲間も増えたことだしな。将来キミとパーティを組むときに遅れを取らないように励みたいと思っている』


カエデ『……仲間!?まさか、飲んだっくれの危ないおばさんとかじゃないわよね?』


 ああ、言葉足らずだったか。そう勘違いしてしまうのも無理はない。

 

『同じ学校に進学した幼馴染と同級生だ。後者はあの大会までに名を残しているから知っていると思うぞ』


カエデ『幼馴染……。まさか、良い関係じゃないでしょうね?』


 そちらがひっかかるか。……まあ、向こうからみたらより脅威なのは冥のほうだろうな。

 

『今はまだ秘密だ』


カエデ『ほとんど自白しているようなものだと思うけど?もしかして、相当仲良いんじゃないの?』


『……黙秘する』


カエデ『(ハンカチを噛む女の子のスタンプ)』


 これは嫉妬させすぎたか。

 ……が、かなりの疑問が生まれた。

 公爵かつ有力な政治家の次女ならばスペアとは言えど幼馴染の男くらい確保できるはずだ。

 それも、そこそこ以上の器量に育ちそうで独占可能な将来の婿となる幼馴染を。


 ……口説いたときの反応的があまりにも初過ぎた。

 

 疑問に思ったら聞かずにはいられない。


『すまない…。が、キミには幼馴染はいないのか?いてもおかしくない立場のはずだが』


カエデ『何かと思えば……。鍛えるのに邪魔になりそうだったから、断っておいたのよ。たしか三歳くらいの頃だったかしら?そこから度々聞かれたけど、その度に要らないって返答していたらいつの間にかこの有り様よ。ふん』


 早熟過ぎやしないか?たしかに、前世と比べたら超人がゴロゴロしている世界ではあるが……。

 項羽の再来ではないかというような武勇を誇る女がC級の上位でくすぶるような世界だ。

 ならば、その中で世代ぶっちぎりナンバーワンともなればこれくらいの逸話(?)は残してもおかしくないか。


 ともかく、機嫌を直してもらわないと……。


『それは嬉しいな』


カエデ『嘲笑ってるの?』


 これはコミュ障ゆえのものではなく、あえてこうしている。

 次に続く言葉は……もちろん。 


『そのおかげでなんの患いも憂いもなくキミを嫁にする事ができるわけだから、俺にとってはまさに僥倖だ』


カエデ『むう。そんな簡単にごまかされたりはしないんだからね。…ちなみに、お嫁さんは何人くらい娶る予定なの?』


『多くて十人前後。おそらくは六人程度。少なくて四人といった具合かな』


カエデ『…アレ?思ってたより現実的な数ね』


『…そうなのか?』


カエデ『大昔の我が国の男性貴族には三百人囲った記録が残っているからね。それに、ダーテルムスプの男帝には七百人という記録もある。だから、それくらいなのかと』


『ああ、かの性豪たちか…。流石にその数の女性に愛想を尽かされずに愛を与えるのは俺には不可能だから安心してくれ』


カエデ『アンタはとうてい叶いっこないこと宣言する夢想家だからね。こっちのほうもこれくらい夢見てるのかと思っちゃったわ。ちょっと安心。…でも、さらに有名になったらアンタの子供がそこら中に生まれることになりそうでそれはちょっと嫌ね』


『俺も少し憂鬱だ。顔も知らない女性から生まれた俺の子供が何千人と存在するようになるのは勘弁願いたい。なんとかならないものかと思っているが…まあそこはおいおい、だな』


カエデ『そうね。…とりあえず、D級に昇格したら私のお家に来なさい。できなくても冬休みには私のお家に一回来ること。いい?』


『冬休みまでにD級だと!?流石に冒険者を舐めすぎてはいないか?』


カエデ『そう?アンタならやってのけると思ってるんだけど。まあ、別にE級に昇格すらできなくても問題はないわ。私のお母さんに挨拶しなさい。あの大会を見て、そしてアンタとの関わりを話してから興味津々みたいなのよ。もちろん、心配もされちゃってるけどね。反対されたりはしないと思うわ。いいわね?絶対よ』


『ああ、もちろん。それで、その、心配というのは俺の願望のことか?』


カエデ『もちろん。現代の貴族階級では珍しいことだもの』


『庶民の間でもなかなかに珍しいことではあるが、比ではないんだろうな。本来はそちらが選べる立場だものな』


カエデ『そういうこと。まあでも、うちの家族は反対しないと思うわ。お姉ちゃんだけは婚約者の人といろいろ違いすぎてちょっと引いてたけどね。それでも結局恋路を賛成してくれたわ』


『であれば、冬休みまでにD級昇格目指してみよう。期待は裏切れないことだしな』


 安全を重視しすぎなければ、無理ではないだろう。

 少し守りに入っていたかな。

 しかし、一年以内にD級昇格か……それに、勉強も頑張らなくてはならない。

 もっといろいろ詰め込まなくてはな。


 スマホを傍らに起きつつ、冒険者、学校、両方の座学を頭に詰め込んで行った……。

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