第11話:魔法を撃ちまくる令嬢
「
お手本となる魔法をリディスに見せ、それを本人なりの詠唱で使わせる。
魔法を使う度に精度は上がっていき、今は繰り返し撃たせて練習させている。
「魔力は大丈夫ですか?」
「ええ。本に書いてあった様な疲労感はないわ。まだまだ魔法を使えるわよ!」
これまでは割と俺の事を下に見ていたリディスだが、魔法が使えるや否やこの有様である。
元気になるのは良い事だが、目標を決めなければな。
今日一日は好きに魔法を使わせるとして、それなりに高火力の魔法を使えるようになってもらわなければな。
さて、しばらく暇になるし、俺は俺で訓練するとしよう。
「
少し重いと感じる程度の剣を作り出し、正眼で構える。
イメージするのは、フユネを開放している時の剣捌きだ。
能力に頼っているとはいえ、実際に動かしているのは俺自身だ。
能力に動きを、自力で行えば良い。
少し大きめな木の前に立ち、剣を上げて下ろし、間合いを測る。
これまで使ってきた武器は色々とあるが、個人的に一番大事だと思ったのは、相手との間合いだ。
どれだけ切れ味の良い剣だとしても、根元で斬るのは難しい。
逆に防御するならば、切っ先よりも根元の方が、力が入りやすい。
わざとゆっくりと剣を振りながら、身体の動きをイメージする。
魔法少女状態と通常時では、筋力の差異があるだろうが、身体に覚えさせる行為は効果があるはずだ。
『おーい。後ろを見てみ』
集中して剣を振っていると、アクマに声を掛けられたので後ろを振り向くと、リディスが倒れていた。
(ふむ。どれ位時間が経った?)
『五時間位経ってるよ』
………………少々熱中し過ぎたようだな。
俺の悪い癖だが、仕事柄黙々と作業をするのに慣れてしまっている。
そのせいで、何度か徹夜で仕事をやってしまった事があった。
アクマに一言いっておけば良かったな。
「生きていますか?」
「だ、だい……じょうぶ……よ。これまでの……事を思えば……これ位……」
(この世界で魔力が少なくなると、どうなるんだ?)
倒れているリディスは息も絶え絶えだが、結構生き生きとした顔をしている。
大丈夫なのか?
『ハルナが居た世界とは少し違って、命を削ってまで魔力を使うなんてことはないよ。気持ち悪くなって、倒れて気を失うのが普通だね。無理をしようにも、まず無理だよ』
なるほど、魔法を使い過ぎて死ぬ事はない訳だな。
ある意味安心材料かもしれないが、戦いの途中で動けなくなるなら、待っているのは死だろう。
「
リディスの口にむせない程度の水を滴して飲ませる。
「……ありがたいのだけど、主人に対してこれはないんじゃないかしら?」
「今はメイドではなくてアクマですので」
メイド服ではなく、ローブなのでリディスに従う必要はないのだ。
「初めて使った魔法はどうでしたか?」
「そうね。思っていたよりも、魔法って簡単だったのね……」
「扱っている魔法がこの世界のものとは違うので、感覚は違うでしょうが、魔法自体はそんな物ですよ」
魔法を使うことだけならば簡単だ。
だが、魔法で魔物を倒したり、人と戦うとなると話は変わってくる。
圧倒的な暴力か、全てを寄せ付けぬ技量か。
戦いとは、とにも面白いものだ。
「これだけでも、貴女を召喚したかいがあったわ」
「満足するのはまだ早いですよ」
魔力が無くなったから練習が出来ない……なんて時間の無駄としか言いようがない。
(そん訳で頼む)
『了解。触れればこっちでパスを繋げるよ』
リディスとは違い、俺は有り余るほど……実質無限の魔力がある。
これを使わない手はないだろう。
「えっ? あれ?」
リディスの腕に触れ、魔力を注ぎ込む。
驚くリディスだが、これでもう大丈夫だ。
「魔力は回復しましたね。次からは実用的な魔法を覚えていきましょう」
「――悪魔ですものね……人類がまだ使えない魔法を使えても、おかしくないわよね……」
魔力の補給は色々と制約があるからな。
人によって魔力の波長。血液で言えば型が違う。
下手に他人の魔力を流し込めば、爆発してもおかしくない。
リディスを起き上がらせ、再び杖を持たせる。
「今は杖の補助があるので容易く使えてきますが、杖を使わない場合難易度は数倍上がります。その事を念頭に置き、練習してください」
「分かったわ」
これまで俺が使ってきた中で、使いやすく実用性のある魔法を教えていく。
あくまでもこれらは基本の魔法であり、汎用性があるものだ。
雑魚を相手にするならば尖った魔法よりも、程々の魔法で十分だ。
つまり、対人戦用の魔法だ。
人を相手に星を穿つ魔法や、山を消し飛ばす魔法は過激だし、何より撃つまでに時間が掛かる。
教えたところでリディスの魔力では、使用できないのもあるが、もしもの事もある。
「リディスは何の属性が好きですか?」
「属性? うーん……氷か雷かしら? 綺麗ですし」
「そうですか」
突然の質問にリディスは首をかしげるが、直ぐに魔法の練習に戻った。
意味もなく質問したのではなく、これにはちゃんと意味がある。
魔法試験用の魔法だが、俺の方で準備しておこうと思ったのだ。
時間もあるので一からリディスに考えさせても良いが、それよりも魔法の練習の方に時間を割いた方が有意義だ。
それに、良い点数を取るには相応の魔法でなければならない。
『ツンデレ?』
(ツンもデレも何も無い。ただの親心的な物だ)
一応リディスは弟子的な物になるので、ちょっとした手向けみたいなものだ。
さて、氷の魔法はどうしても規模が大きくなってしまうので、教えるなら雷の魔法だろう。
リディスが使える魔力内に納め、それでいて威力も高い感じだと……ふむ。昔使ったアレをアレンジするとするか。
「
一度実物を見せ、軽くレクチャーすれば杖の補助で簡単に魔法が使える。
最初期の俺よりも下手糞ではあるが、今はとにかく使わせた方が本人のためになるだろう。
かなり鬱憤が溜まっていたせいか、今はとても良い笑顔をしている。
1
「一旦止めて下さい」
更に二時間程魔法を撃たせ続け、一度ストップを掛ける。
魔法を使うだけなら、杖があれば何とかなるな。
「ふぅ。どうしたの?」
「次は杖無しでやってみましょう。補助が無い分、イメージをするのが重要です。それと、この世界の魔法の在り方については完全に忘れて下さい」
「……分かったわ」
少し心配そうにしながらもリディスは素直に頷き、杖を俺に返した。
「先ずは、どのような魔法使いたいかイメージして下さい。そしてそれを魔法陣として作り出します。そして想いを込めて唱えて下さい」
杖が無い場合は、この作業に相当苦労する。
手書きで図面を描くか、CADで図面を描くか位違う。
速度は勿論、精度もCADを使った方が圧倒的に良い。
だが手描きに慣れれば、その経験をCADに活かす事が出来る。
いざという時の為に、連取しておいて損は無い。
リディスは深呼吸をしてから腕を前へと出し、集中を始めた。
「火弾。燃え上がる炎となり、撃ち放たれよ! ファイアーボール!」
掌の前に赤い魔法陣が現れ、赤い球がひょろひょろと飛んでいく。
「で、出たわ」
「これで一応正式に、魔法が使えるようになりましたね。ですが、練習は必ず私が居る時にお願いしますね。理由は言わなくても分かりますね?」
「ええ、大丈夫よ。今回のって寿命は取らないの?」
「これはあくまでもリディスの力ですので、お代は必要ありません。指導費用については衣食住で相殺と言った感じになります」
「……あなた本当に悪魔なのよね?」
いいえ、ただの魔法少女です。
「悪魔は契約を重視するものです。今すぐ世界を滅ぼしたいとか言うならば、全ての寿命を頂きますが?」
「だ、大丈夫よ! そんな物騒な事は頼まないわ!」
アルカナが使えない現状では、世界を滅ぼす魔法なんて使うのは無理だが、アルカナさえ使えるようになれば出来てしまうだろう。
まあこの世界の神や管理者が敵対でもしてこない限り、此方から手を出す事は無いだろう。
「後二時間位は杖無しで練習しましょう。魔力は私が補給するので、幾らでも使って下さい」
「ええ。これまでの分頑張るわ!」
一日中魔法を使わせるのは間違いなくスパルタな行為だろうが、数年分の遅れを取り戻さなければならない現状、仕方のない行為だ。
魔力さえ如何にかなれば、後は精神力の問題だ。
リディスが諦めないのならば、俺は付き合うだけだ。
『このツンデレ』
(歯ブラシで擦るぞ?)
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