第7話:いいえ。ただの魔法少女です

(もう一度、言ってくれないか?)


 アクマにネタばらしを頼んだところ、思いもよらぬ事を言われた。

 

 アクマの悪ふざけかと思い、もう一度聞き直す。


『あの二人は、この国の騎士団の団員で、バッヘルンを監視するために派遣されているんだ。だから、ゼルエルはあの通り強かった訳だね。そんなゼルエルに力を誇示したんだから、ハルナも凄いもんだね!』


 これは褒めているのではなく、完全に煽りだな。


 もしも穏便に事を運ぶなら、ゼルエルとの戦いは負けなければならなかった。

 

 流石に国に目を付けられるのは、後々の事を考えると止めておくべきだった。


 アクマに言わないように口止めをしたのは俺だが、流石に…………まあ、俺が悪かったと割り切ろう。


(所属や階級……いや、今言われても覚えられないだろうから、騎士団の中でどれ位強いのかだけ教えてくれ)


『ゼルエルの方は、全騎士団の中で二十位くらいだね。ジャックは百位くらいかな。因みに総数は十万人位だよ』


 ……完全にやらかした奴だな。

 

(何でそんな奴らがバッヘルンの所に居るんだ?)


『一応バッヘルンは忠臣と言われているから、見定めるためだろうね。この国も結構きな臭いみたいだし』


 国……名前は確かオルトレアム王国だったか。


 農業が盛んで食うには困らないのが特徴だと書いてあったな。


 国力としては中の中位らしいが、その中でも個人の武で二十位の奴と初っ端で戦う事になるとはな……。


 世が世なら負けバトルだろうが、実質強くてニューゲームなので、そんなバトルも勝ててしまった。


 とりあえず向こうはこの屋敷に潜入している身だし、直ぐに何か行動を起すこともないだろう。


 出方を窺いながら、探り探りだな。


 しかし貴族の屋敷だから仕方ないが、部屋までが遠い。


 急ぎの時は転移を使う事も、視野に入れるとしよう。


 移動の時間はただのタイムロスだからな。


「どうぞ」

 

 メイドらしく扉を叩くと、中から声が聞こえた。

 

「ただいま戻りました」

「やっと戻ってきたのね! それで、一体どういう事かしら? あの父様がこんな簡単に物事を決めるはずないわ」


 入ってきたのが俺だと分かると、リディスは詰め寄ってきた。

 

 あれだけバッヘルンの怯えていたのだから、トントン拍子に話が進んで驚いているのだろう。


「私が何なのかお忘れですか?」

「――うっ」


 険悪な空気が流れ、リディスは一歩後ろに引き、強がりながらも怯えの色を出す。

 

 一応悪魔と俺はなっているので、困ったら悪魔だという事で無理を通せば良いだろう。


「父様に何かしたの?」

「私の有能さを説いただけです。心配でしたら、確認して頂いても構いませんよ。――聞けるのでしたら」

「あなた……」

 

 強く拳を握るが、俺から目を離す事はしない。何も出来ない歯痒さと、行動を起せない弱い心。これから成長できるのかね?

 

 さて、遊ぶのはこの辺にして、もうそろそろ本題へと入ろう。

 

「冗談はここまでにして、一応正式にメイドとなりましたので、これからの行動に差支えはありません。先ずは、これからについて話しましょう」

「えっ? 冗談?」

 

 ソフィーに座らせ朝とは違いアクマの指導の下紅茶を淹れる。


 持っていく前に軽く飲むが、流石に朝ほど酷くない。


『うーん。市販の方が美味しいかな』


(お湯を注ぐだけでそれなりの味が出せるってのも、科学の進歩だろう。だが、後数度繰り返せばそれなりになりそうだな)


 折角なら水や茶葉の厳選などもしたいが、火は使えても水の魔法は使えないんだよな。


 魔法少女となれば別だが、魔法で出した水って使えるのだろうか?


「お待たせしました。まだ二回目なので味は今一となりますが、飲めなくはない思います」

「え、ええ。ありがとう」


 俺もソファーへと座るが、リディスは紅茶を飲もうとせず、俺の気を窺うばかりだ。


「先ずは短期目標と、長期目標を決めましょう」

「もく……ひょう?」

「はい。長期目標は全てを見返す……で宜しいですね?」

「ええ。そうね」


 無能であるリディスは、全てを見返す力が欲しくて俺を呼んだ。

 

 見返すとはどれ程の事を指すのかだが、長期目標としてはとりあえずこれで良いだろう。


「続いて短期目標……長期目標を達成するまでに積み上げる目標の事ですね。例えば、魔法を使えるようになるとか、控えている学園への入学で何位以内に入るかとかです」

「意味は分かるけれど…………あなた本当に悪魔なのよね?」

「対価を貰うにしても、貰うならばなるべく美味しい物が良いですからね。対価とは別にして、リディスの事を鍛える気です」


 対価など貰うことは出来ないので全て噓だが、それらしい言い訳にはなるだろう。

 

 リディスを鍛えるついでに、この世界について学ぶ。

 

 何をしても良いと言われているが、会社見学で服装が自由だからとジャージで行けば、白い目で見られるのと同じだ。


 最低限のマナーは守らなければならないだろう。


 それはそれとして不愉快な事をしてくるなら、相応の対応を取る予定だがな。

  

「そう……そうね。でも、本当に私は強くなれるのかしら?」

「そのための私です。それに私を召喚出来ているのですから、全く魔法が使えないなんて事はないはずです」

「――あっ」


 教えてもらったプロフィールでは全く魔法が使えず、武術もダメダメとなっていたが、ならば悪魔召喚の魔法陣が発動するのは可笑しい。

 その事に気付いていなかったようだが、ならばどうにかなる可能性がある。


「それで、どうしますか? リディスの選択を、私は尊重しましょう」

「……私の願いは叶うのよね?」

「はい。それが私の役目ですから。それに、対価を払わなくても良いのでしたら、その方がリディスのためとなるでしょう?」

「それは……そうだけど…………本当に微妙な味ね」


 落ち着くために、俺が淹れた紅茶を飲んだリディスは顔を顰めてから、テーブルに置かれているお茶菓子を摘まんだ。

 

「まだ二度目ですからね。何せこんな事をするのは初めてですので」

「悪魔がメイドなんて……いえ、悪魔に常識を説くのが間違いね。そうね……どうしましょうかしら」


 腕を組み、考える様は流石貴族令嬢と言った所だろう。


「――私は……私は学園の入学試験で主席になりたいわ」

「承知しました。先ずは主席入学を目指していきましょう」


『無理じゃないかな?』


(始まる前に駄目だしするのは止めてくれないか? それに、無理を可能にするのが、魔法少女じゃないのか?)


 俺が望んだ事とは言え、実質的に確率ゼロパーセントの戦いに勝ったのだ。

 

 たとえそれが相打ちだとしても、無を有にすることも可能だろう。


『まあハルナの好きなようにすれば良いよ。この世界の出来事は、私の管轄外だからね』


 先の事を考えて強くなりたいが、強くなる方法を探さなければならない。

 

 魔法少女が修行をした所で、ほとんど意味などないからな。


 重ねた想いこそが、力となるのだから。

 

「分かったわ。それで、一体何をするの?」

「先ずは勉強からしていきましょう。どの様な問題が出るか分かりませんが、勉強についてはリディスが頑張らなければなりません。私も協力するので、満点を目指しましょう」


 勉学については多少できるらしいが、主席と言ったら満点だろう。

 

 魔法や武術は勉強が終わった後、一気に詰め込むほうが効果的だ。


 それに、勉強をしている間に、俺の方も準備をしなければならないしな。


 ついでにメイドとしての基礎も学ばなければ。


 仕事であるのならば、完璧を目指すのが、俺の流儀だ。

 

「協力するって、ハルナは頭が良いのかしら?」

「覚えるだけなら、一度覚えたことを忘れる事はありません。歴史等は私も覚えないとですが、計算ならおそらくこの世界でも有数かと思います」

 

 アクマはパソコンのHDDの様に、外部記憶する事が出来るので、俺との会話を一々全て覚えている。

 

 なので、こいつに嘘は通じないのだ。


 一応外部記憶している分は引き出さなければならないが、タイムラグなんてものは無い。


 なので暗記すればいい問題は、アクマが居ればどうとでもなる。


 問題があるとすれば、拗ねると教えてくれない事だろう。


「そう……なら、先ずはハルナがどれだけ出来るのか試させてもらうわね。これでも、勉強については結構出来るんだから」

「構いませんよ。その代わり、リディスの納得する結果を出せたならば、私の言う事を素直に聞くように。あまり力技は好きではないので」


 突っかかって来られるのは面倒なので、これを機にしっかりと上下関係を分からせるとしよう。


(頼んだぞ)


『ハルナの頭なら私を頼らなくても良いと思うけど、仕方ないなー』


 頼らなくてもと言うくせに、アクマの声は弾んでいる。


 全く。お子様達の相手は疲れる。

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