第6話:メイド長VS魔法少女系メイド
屋敷の裏で軽く練習をする事、数分。
実際にこの世界の魔法を使ってみて思ったのだが……。
(相性悪すぎないか?)
『技術体系が変われば、それに伴ってソフトがエラーを吐くのは仕方ない事だからね。メートル法と ヤード・ポンド法のやり取りでイライラするのと同じだね 』
クッソ分かりやすい例えだな。
これまでは思い描いた設計図に魔力を流す事で魔法を使っていたのだが、この世界では少し異なる。
魔力をそのまま魔法へと変換するので、複数同時に発動するのが物凄く難しい。
イメージがそのまま魔法へと反映さるので、強弱を付けるのも難しく、発動自体は早いが、今のままではあまりメリットがない。
上手く扱えばそれなりに面白い事も出来そうだが、今の状態ではそれも難しい。
(取り合えず、あまり攻撃系の魔法は使わない方が良いな)
『……まあ……うん。そうだね。だけど、その身体は頑丈って訳じゃないんだから、攻撃を喰らわないように気を付けなよ。それと、もう来るみたいだから結界は解くよ』
アクマの小言は今に始まった事ではないので、軽く受け流していると、メイド長がこちらに歩いてくるのが見えた。
腰には一本の剣をぶら下げ、靴だけが動きやすいものに変わり、服はそのままだ。
更にその後ろには、バッヘルンとジャックさんが居る。
「武器は良いのですか?」
「必要ありません。それよりも、早く始めましょう」
メイド長の目が険しくなるが、何も言わずに俺から距離を取った。
煽った訳ではないが、これでメイド長の最初の一撃が何なのか絞り込む事が出来る。
大抵の人間は、馬鹿にされたら一撃で決めようとしてくるからな。
(念のため、屋敷側に不可視の結界だけ頼む)
『了解、幸運を祈るよ』
ジャックさんが俺とメイド長の間に立ち、咳払いをする。
「それではゼルエルとハルナの対決を始める。無茶をするなとは言いませんが、殺しだけはしないように願います。――始め!」
「ライトシールド」
魔力に物を言わせた、強固なシールド。
それを、身体に纏わりつく様に展開する。
「……少しはやるようですね」
目にもとまらぬ速さで、メイド長は俺の首に剣を振ってきた。
……これ防がなかったら間違いなく首が飛んでいたと思うのだが、もしかして殺る気なのか?
まあ殺気は感じられなかったので大丈夫だと思うが、そちらがその気なら、こっちも少し遊ばせてもらおう。
「
俺とメイド長を囲むように現れた光の剣。
ドーム状に展開された光の剣は全て内側に向き、発射の時を今かと待っている。
「――これは!」
メイド長が驚くと共に、一本の光の剣が射出された。
俺から距離を取る事で避けるが、それが一番の悪手だ。
「それでは、良い踊りを」
俺のカーテシーを合図に、様々な方向から剣が射出され始めた。
「こんな魔法なんて……アイスソード!」
メイド長は右手にロングソードを持ち、左手に魔法で作った氷の剣を持って次々と剣を弾き、壊していく。
直接攻撃する魔法は危ないが、こうやって間接的に攻撃する分には馬鹿みたいな火力にならない。
それでも直撃すれば、矢じり無しの弓に射られるくらいの痛みはあるだろう。
「テンペスタムブリザード」
どうやって料理してやろうかと悩んでいると、メイド長の周りに氷の竜巻が巻き起こり、俺が展開していた光の剣を全て消し去ってしまった。
やはりメイド長の名は、伊達ではないのだろう。
「お見事ですね。あれを防ぎながら魔法を使えるとは思いませんでした」
全方向から攻撃を防ぐなど、そう易々とは出来るものではない。
「……舐めていたつもりはありませんが、あれだけの魔法を詠唱も無しで使えるとは思いませんでした。あなた、何者ですか?」
今まで以上に鋭い視線を向けるメイド長から、魔力と思われるものが迸る。
明確な殺気。身体の芯が震えてしまいそうだ。
「メイドですよ。それ以上でも、それ以下でもございません。それよりも、今は戦いの途中ですよ?
虚空から十本の白い光が飛び出し、メイド長を拘束しようと接近する。
因みに、俺が使っている魔法は所詮オリジナルである。
この世界にある既存の魔法も使えるが、間違いなく魔力を込めすぎてしまうので、碌な事にはならない。
ならば多少難しくても、自分で考えた魔法を使った方が、手加減が出来る。
しかも先程の光の剣とは違い、此方は完全にマニュアル操作となるので……。
「猪口才な! 風よ、凪払いなさい! シルフエッジ!」
鎖を避けながら、俺に直接魔法を放ってくるが、そんなのは想定内である。
鎖の一本をメイド長の魔法に向かわせ、凪払って無効化する。
この世界の光の魔法は攻撃力があまり無いが、無駄に魔力を込めているので、先程の光の剣よりかなり固くなっているので。
だからこの様な芸当が出来る。
「クッ! そのような芸当が出来るとは……それに、そんな魔法見た事……」
見たこと無くて当たり前だろう。この世界は魔法がイメージ依存である関係で、新しい魔法などが生まれる事は殆ど無い。
過去に作られた魔法を、ずっと使い回している。
そんな事が図書室にあった本に書かれていた。
一応魔法陣などの技術もあるが、これはもっぱら使い魔を呼ぶ出すためにしか使われておらず、魔法陣を利用した魔法は開発されていない。
まあこの世界の魔法体系的に難しいのだろう。
なので、通常なら魔法を覚えておけば対策を取れるのだが、出来ないためにメイド長は驚いているのだろう。
そしてその驚きは大なり小なり隙となる。
鎖に翻弄され、発動した魔法は鎖によって無効化される。
見た所、メイド長は水と風の魔法が使えるみたいだ。
属性毎に派生属性もあるみたいだが、水だと氷だったり霧だったりがある。
光だったら閃光や祝福だろう。
ざっくりと言えば攻撃特化か、回復特化だ。
例に漏れず光と闇は貴重な属性らしいが、まあどうでも良いだろう。
そんな事を考えている内に、焦って行動を起そうとしたメイド長の四肢に鎖を巻き付けて、空中に固定する。
『年上に緊縛プレイなんて、良い趣味してるねー』
(実年齢なら多分どっこいどっこいだろう)
アクマのボケは無視するとして、空中に縛られたメイド長は藻掻きながら、恨めしそうに俺を睨む。
「チェックメイト……で宜しいでしょうか? それとも、最後まで踊りますか?」
四肢を各二本の鎖で縛り上げ、二本の先をメイド長へと向ける。
真っすぐに突き刺せば、人くらいは貫けるだろう。
やらないけど。
「待ちたまえ! ゼルエル! 君の負けで良いね?」
遠くで見ていたジャックさんが走って俺とメイド長の間に入り、ストップを掛けてきた。
「――そうですね。この鎖をほどけない以上、私には勝ち目はございません」
指を鳴らし、メイド長を縛り上げていた鎖を解く。
『いやー。まさか本当に勝てるとはね。普通に負けると思っていたよ』
(その勝てないは、反則負けでだろう?)
先に移動して魔法の練習をしたのだが、所謂初級と呼ばれる魔法を使ったら、想像の五倍程の威力となった。
アクマに結界を張ってもらわなければ、焼け野原を作っていただろう。
魔法はこの世界のものだが、魔力は別のところから引っ張って来てる弊害だろうが、後で慣らしておこう。
「……これ程とは思っておりませんでした。侮っていたことを謝罪します」
ふむ。思いの外素直のようだな。
俺としても別に争い訳ではないし、謝罪は受け入れよう。
「いえ。私の様な幼子には、当然の反応かと思います。これからご指導ご鞭撻の方よろしくお願いします……と言うことで宜しいですか?」
「――そうですね。これからは同じメイドとして宜しくお願いします」
一瞬きょとんとした後に微笑み、何故か俺の頭を撫でて来た。
「はっ! はっ! はっ! いやー、流石遠方から呼んだだけはある。まさかあのゼルエルに勝てるとはな!」
気分が良いのか、バッヘルンが拍手をしながら笑う。
勝った事だし、後でネタばらししてもらうとしよう。
「ご満足して頂けたようで何よりです。それでは失礼します」
(リディスはどこだ?)
『私室だよー』
今日はリディスの日程の確認や、短期目標と長期目標の設定。
この世界の事をざっくりと暮らし方や、俺の仕事についても考えよう。
1
ちょこちょこと歩きながらイニーは去り、残された三人に静かな時間が流れた。
その静寂は、直ぐにバッヘルンによって打ち消されるのだが。
「私も戻るとしよう。いやー、面白いものが見れたよはっ! はっ! はっ!」
バッヘルンは相当機嫌が良いのか、もう一度高笑いをしながら去って行った。
「いやはやまさかの結果ですが………あの剣や鎖は光の魔法ですかな?」
「おそらくは。ですが……」
「見たことも、聞いたこともないですね」
ハルナの完全オリジナル魔法なので当たり前だが、数百の光の剣で貫く魔法も、自在に操り、攻防ともに使える鎖の魔法など存在しない。
「はい。そして何よりも……」
「髪……ですな。あれ程まで真っ白とは……」
この世界では、白髪の者は基本的に存在しない。
髪の色は使える属性に近しいものになることが多く、火なら赤色。光ならば金色か銀色となる。
勿論例外もあるが、基本的な情報を当てはめると、イニーの髪の色はおかしいのだ。
髪が白くなるのは、死んで身体から魔力が抜け落ちた時だ。
知識としては一般常識となるが、一般的すぎるので、気にしない者は全く気にしない。
バッヘルンが良い例だろう。
「――
「……あの組織は壊滅したはずでは? 生き残りの子供を含めて」
「はい。私や当時の隊長達とで壊滅させたはずです。ですが、それ以外の理由であの強さを証明を出来ますか?」
今から十年程前、悪魔崇拝をする組織があり、その組織が世界を破滅へ導くために作り出したのが、人造魔導兵器、通称
その悪魔の子供達は文字通り幼い子供の姿をしており、真っ白い髪が特徴的だった。
子供なのを良い事に相手を油断させ、その隙に相手へ損害を与える、非人道的兵器だ。
だが、ここでジャックはゼルエルの言葉に疑問を持った。
「しかし、あの子供達は火の魔法しか使えない筈では?」
「そこが不可解なんですよね。それに、私の殺気に全く反応せず、殺気もありませんでした」
ゼルエルは周りへ被害を出さないように気を付けていたが、それでも出せる全力を持ってハルナへと攻撃を仕掛けた。
なのに全てを軽くあしらわれ、見たことも無い魔法に翻弄されて拘束された。
「あなたを倒せた以上普通ではないのでしょうが……当面はどうしますか?」
「これまでの忠義を見る限り、黒の可能性は低いですが、ハルナが一体どこから来たのか調べましょう。あの髪の色ですから、目撃情報がある筈です」
「外への通達は私がしておきましょう。ゼルエルはどうしますか?」
「メイド長らしく、本人から聞き出そうと思います。あの子は……」
ゼルエルは、先程撫でた、ハルナの表情を思い浮かべる。
人形の様に無表情だが撫でられた瞬間、少し表情を崩した。
その有り様はとても愛いらしく、ゼルエルも微笑んでしまった。
仮にハルナがあの時の生き残りだとしても、恐らくだが害意はない。だが、本人にその意思がなくても、滅びへと導くのが悪魔の子供達だ。
けれど……。
「出来れば、アインリディス様共々、健やかに成長して欲しいですね」
憂いを帯びた表情で、晴れ渡っている空を見上げる。その時にほんの僅かに違和感を感じた。
その違和感を考えるが、直ぐには答えはでない。
「親心と言ったものですかな。あのゼルエルがこうも成長するとは」
穏やかにジャックは笑い、ゼルエルは少し恥ずかしくなり、速足で屋敷へと戻り始めた。
先程感じた違和感を完全に忘れて。
ゼルエルとジャックは、普通のメイドと執事ではない。
その事をハルナが知るのは、直ぐの事である。
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