第3話:俺、一応悪魔なんですけど?
具現化したアクマと本を読んでいる内に、少しだけ図書室が明るくなってきた。
魔法少女としての身体は便利なものであり、徹夜程度問題ない。
しかし魔法のある異世界とはいえ、魔法とはよく分からないものだ。
本によって書いてあることはマチマチだが、とりあえず魔力を練って良い感じに外へ出すと魔法が使える……だそうだ。
この世界の魔法は詠唱をする事によって、魔法の発動時にプラス補正が掛かる。
詠唱を省略したり無詠唱も出来るそうだが、その分魔力消費が激しくなったり、そもそも発動しない可能性がある。
イメージが大切って訳だ。
そして使える魔法には適性が必要である。
とは言っても俺が知っているような、火の魔法が使える者は水の魔法が使えないなんて事はないみたいだ。
だが使える属性は基本一つで、多くても二つ。稀に三つだったりするらしい。
多くの属性が使えるから強い……とは一概には言えない。
俺もよくやってきたが、魔力によるごり押しでどうとてもなるものだ。
属性の相性はあるが、多くの魔力を込めれば相性程度覆せる。
力こそ正義だ。
無論逆をやられたら堪ったものではないが……先ずは適性を見てから考えよう。
「それではやるとしましょう」
「準備はしといたよ」
魔法少女の状態を解くと、白いローブからシックな感じで、少しゴシック風味を足したメイド服に変わる。
「……」
「おっ、いいねー! 似合ってるよ!」
魔法少女を解けば、通常は変身前に着ていた服に戻る。
俺の記憶が正しければ、寝間着だったはずなのだが? ……それと一つ気になる事がある。
「服の事は許さないとして、向こうから持ち込みが出来たのですか?」
アルカナはアイテムボックス的なものを標準装備している。
だが世界を跨いだりすると、中身が消えてしまう。
当たり前といえば当たり前だが、この世界に来てから何も仕舞っていないので、このメイド服は俺の世界のものとなる。
「この世界に影響を与えないのと、私達が個人で使うものだけだけどね」
何をどれだけ持ち込めたかは分からないが、朗報だな。
軽く手を握ると、しっかりと力が入るのを感じる。
更に魔法少女の時にしか感じられなかった魔力を、変身を解いている今も感じることが出来る。
ただ違和感というか、何かがズレている様な感覚がある。
これが魂と身体が適応していないって事か……。
何にせよ、これで人並みの労働が出来そうだ。
アクマが用意してくれたのは、属性の判別が出来る紙だ。
この世界に居る神様がサービスでくれたそうだ。
「それについては後で話しましょう。これに魔力を流せば良いんですね?」
「うん。そうすれば適正のある属性が分かるみたいだよ」
「分かりました」
さて、どうなるかな?
紙に魔力を流すと仄かに光だし、二つの文字が浮かび上がる
…………マジで?
「おー。ハルナにピッタリの属性だね」
「一応悪魔と名乗っているのですが?」
浮かび上がったのは火と光。
悪魔を名乗るにしては、あまりにも不釣り合いだ。
髪が白いので見た目には合っているだろうが、闇とか土の方が良かった。
少々残念だが、属性も分かったことだし魔法を使ってみるとしよう。
それと笑っているアクマは、後でお仕置きしてやろう。
手の平を上に向け、魔力を意識する。
「ライト」
「うわ!」
真っ白い光球が浮かび上がり、目が眩む。
魔法名だけなのでもっと弱くなると思ったのだが、魔法少女の時の熟練度が適応されてあるのだろうか?
「急に何するのさ!」
「試しにこの世界の魔法を使ってみたのですが、思ってた以上に、強力になってしまいました」
両手で目を押さえたアクマが、俺に蹴りをいれてくる。
今回は俺が悪いので、甘んじて受け入れよう。
「しかし、魔法はこの世界のモノみたいですが、魔力は供給されているモノなんですね」
「え? ああなるほどね。この世界で一生を終えるのならこの世界のでも良いけど、先の事を考えれば染まっていない無色の魔力じゃないと、困ることになるからね」
……世界が違えば法則が代わり、力の源が変わる。
一々世界に合わせていれば、魔女に勝つなんて到底無理だ。
当然と言えば当然か。
「つまり、ほぼ無限に使えると?」
「端的に言えばそうなる」
わーい。チートだー…………って喜べる程の童心など既に無い。
それに、この程度のチートなど手札にもならない。
「分かりました。魔法の常識については最低限学べたので、この後の方針を決めましょう」
「あのリディスって子をどうにかするのと、魔女とちゃんと戦えるように強くなる。大きな方針はこの二つかな?」
リディスを上手く改心さて、悪魔召喚を二度とさせないようにし、ついでに生活基盤を築く。
そして折角の時間を利用し、更なる力を手に入れる。
外道な方法で良ければ直ぐに思い付くのだが、今度はアクマに蹴りではなく頭突きをされることになるので言わないでおく。
『クスクス』
居候である俺の憎悪の塊。フユネが笑う。
一応エルメスが勝手に出ないようにと封印しているが、もう一人の僕的なこいつは中々に厄介だ。
厄介だが、俺が考えた外道の方法とはこのフユネを使うことである。
フユネの能力は吸収と適応。
言葉程優秀ではないし、憎悪の対象が魔法少女……人なので、魔物を相手には滅法弱くなる。
つまりだ、この世界の人類を皆殺しにすれば、かなりパワーアップ出来るのである。
やらないけど。
ついでにフユネを解放すると女性の面が強く出るので、男としてあまり使いたくない。
「メイドとして働くのは良いですが、人並みの程度の技能しかないですよ? ベッドメイキングとか出来ませんし、コーヒーならともかく紅茶なんて最低限飲める程度でしか淹れられませんよ?」
元々フリーの設計兼デザイナーをしていたので、家事レベルならば問題ないが、専門レベルには程遠いい。
「そこはほら、気合いでなんとか?」
「……分かりました」
「一ヶ月もすれば少しずつアルカナの解放も出来るようになるし、そうすれば掃除や家事なんてパパパって出来るようになるから、それまで頑張ろー」
確かにアルカナを解放できるようになれば、アクマの言う通り、一時的にだがプロと同程度の仕事が出来るようになるだろう。
アルカナの解放とは、アルカナの持っている能力を借り受け、その身に宿す行為だ。
強力な能力であるのだが、人の身には有り余る力なので、制限時間がある。
アルカナの中でも
汎用性がある代わりに他のアルカナに比べると戦闘能力は一段下がってしまう。
その代わりサポートとしてはかなり優良となる。
この能力で家事に特化した姿となれば、一時的だが素晴らしい成果を上げる事だろう。
「頑張るのは良いですが、ちゃんと雇用されるんですかね? それと、話すのが面倒になってきたので、中に戻ってくれませんか?」
「えー。折角ハルナの顔を見ていたかったのに……仕方ないなー。戻るけど、その代わりに、ソラの件をよろしくね」
壁をすり抜けるようにしてアクマは俺の中に戻っていった。
思考すれば会話が出来るのに、アクマが外に出ている時は、口に出して話さないと怒った後に拗ねるのだ。
年齢で言えば数百だか数千歳のはずだが、中身はおこちゃまである。
『雇用だけど、少し面白いネタを手に入れたよ?』
(ネタ?)
『ここの当主であるバッヘルン・ガラディア・ブロッサムなんだけど、結構な野心家らしくてね。上手く丸め込めば力になるかもよ』
野心家ねぇ…………前の世界で馬鹿共を沢山見てきたので、あまり乗り気にはなれんな。
(それで?)
『野心家なんだけど、かなりの小心ものでね。悪事に関しては一切手を出していないんだ。要は、自称野心家だね。ただ、使えないリディスをお金を持っている商人に売り払おうとはしているみたいだね。まあこの程度ならこの世界では珍しくもない事だね。』
ふむふむ。この世界として珍しくもない事ならば、俺からは特に言える事はないな。
郷に入れば郷に従えと言うし、世界が変われば倫理観も変わる。
まあ当のリディスはそれが嫌で俺を召喚したのだろうが、どうにかならなかったものかね?
(どんな人物かは分かったが、どうするんだ?)
『適当に脅して雇って貰えば良いんじゃないかな? ついでに上手く操って生活環境の改善なんかもどうかな?』
……アルカナは人類の味方であり、結構倫理観はしっかりしていたと思うのだが、良いのだろうか?
アルカナの存在している世界とは違うから、多少雑でも良いって事なのか?
(やって良いなら構わないが、良いのか?)
『別に殺すわけでもないからね。それに、地球での生活になれていたなら、こっちでの生活は辛くなるだろうから、早めにどうにかしておいた方が良いよ。温泉も無ければ、コーヒーも無いからね』
なん……だと?
(それは――本当なのか?)
『うん。ついでに、結果を出すまでこの二つについては与えないように、この世界の管理者から通達されているよ』
……おかしいな。俺は確か休暇でこの世界に来たはずなのに、何で働かされようとしているのだろうか?
この世界を滅ぼしてやろうか?
――まあ、暇潰しと割り切るか。何の目的もなくこの世界で生活するよりは、いくぶんマシだろう。
(理解したが、一方的に命令するなら此方も手段を問わないと言っておけよ)
『勿論私がハルナの、不利になるようなことをするわけないじゃないか。それなりの条件を引き出してあるから、安心してね』
(それなら良いが、邪魔だけはさせるなよ? 殺すことに躊躇などしないからな)
『はいはい。それより、目的の人物へ会いに行こうか。今は丁度一人で居るみたいだからね』
(了解ちゃっちゃっと転移してくれ)
さてさて、小心者の野心家はどんな奴かな?
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