第22話 ひとをさがしているあおい
車はそのままぼくの学校やぼくの家からどんどんはなれていった。
車で15分。歩いたら遠いけど、車なら近い。
知ってたけど、車は信号につかまることなんてなかった。大きな通りの信号機も交差点の信号機も青も黄色も赤も色がつかないで死んでいるみたいに止まっている。
でも、ゾンビはむれみたいにいっぱい車に集まってきた。
「来た来た! 命知らずの化物ども!!」
あおいが向かってきたゾンビをはねとばすと、血が窓にビシャッとかかる。それをワイパーで取りながら、あおいは一人一人ゾンビをひいていた。
「うらぁっ!! 痛みなんてねぇから! 平気なんだろ!! もっと来いよ!もっと!!」
運転しているあおいは、ちょっとこわい。さっきまではやさしかった目がギンギンに開いて、口は笑顔で舌を出していた。よくよく見たら、口の周りがよだれでいっぱいだ。
どうしたんだろう? でも、ぼくはこの顔をどこかで見た気がした。
お父さんがよくこういう顔をしていた。ぼくに向かって飲んだビール缶を投げるときとか、たたいたりけったりするときとか、同じような顔をしていた。
わからない。だけど、楽しいのかなぁ。
アリをいじめるみたいにゾンビを何度もひいたあと、あおいは片手でハンドルを動かしながらたばこを取る。ライターで火をつけると、おいしそうに吸った。
開いた窓から煙が消えていった。
「……どこから来たの?」
ぼくはあおいの顔を見ながら聞いた。
「どこって……俺が、か?」
「うん……」
「お前の家とそんな遠くない。俺は、駅前のマンションに住んでいたんだ」
「駅前?」
「あぁ。ここ真っ直ぐ行くとあるだろ」
あおいはたばこで駅の方向を教えてくれた。知ってる。何回か、遠足で通ったことのあるところだ。お父さんは、そこから都会に行って仕事をしていた。
ぼくはびっくりした。あおいはきっともっと遠いところからきたと思っていたのに、すごく近くに住んでいたからだ。
「いろいろ車で回ってたの?」
だって、駅前にもいっぱいスーパーはある。大きなデパートだってあるし。もっと遠くに行けばショッピングセンターもある。
あおいはたばこを窓の外に捨てた。なんだか苦しそうな顔をしている。
「人を……探してんだよ、ずっとな。もうとっくにゾンビになってるか死んでるかだと思うがな」
人? 探してる? だから、遠いスーパーまで来たの?
あおいの大きな手がぼくの頭をなでた。
「お前は自分の心配してればいいんだよ。……さて。休憩は終わりだ。行くぞ」
あおいはまた車を走らせる。ホームセンターまではもうすぐだ。
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